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人事のブレーン社会保険労務士レポート第187号
年次有給休暇の取得義務と我が国の休暇政策

1.はじめに

(1)概要

働き方改革関連法案が成立し、本年4月1日より改正労働基準法が施行されました。
年次有給休暇については中小企業に対する経過措置がなく、平成31年4月1日以降に新たに付与される年次有給休暇より、年間5日の取得を義務付けるという内容です。
改正法の詳細については以前メルマガで取り上げましたので以下にリンクを張っておきます。

https://www.yamamoto-roumu.co.jp/knowledge/mg_20180915.html

概要だけ以下で述べますが、今回のテーマはこの年次有給休暇に対する考え方の整理です。

(2)対象者

概要としては、年10日以上新たに年次有給休暇が付与される労働者に対して最低5日は年次有給休暇を取得させなさいというものです。

年10日以上新たに付与される労働者とは週3日以上の勤務で5年6か月以上勤務しているものが対象です。
年4日以上及び週30時間以上の所定労働時間の労働者は6か月で10労働日の年次有給休暇が付与されますからその時点で対象となります。

(3)付与の方法

年5日以上労働者が自由に取得している企業は何の対策もいりません。
「労働者が自由に取得するもの」+「計画的付与」が5日以上であれば問題ありませんが、5日に満たなければ「あなたはこの日に取得してください」としなければなりません。
使用者が時季を指定することが義務であるとの誤った情報がありますが、あくまで5日以上取得していない労働者に対してのみ「時季を指定して強制的に消化させる」ということなのです。

2.我が国の休暇政策

(1)日本の祝日の数

拙著「経営者が知らない人材不足解消法」175ページに資料を載せていますが我が国の休日数は年間16日で世界2位です。
皇太子殿下が即位され、皇太子殿下の誕生日が天皇誕生日となると年間17日の祝祭日数になり単独2位になります。ちなみに世界1位は18日でインドとコロンビアが並んでいます

(2)長期休暇に関する考察

皆さんの会社も夏休みや年末年始休暇を取得しているのではないでしょうか。この休暇は何なのでしょうか。
所定休日です。
会社によって夏休みの数は違いますが、3日から5日ぐらいが平均でしょう。
年末年始休暇も12月29日から1月3日まで元旦を除けば5日あります。
祝祭日でもない年次有給休暇ではない休日数は8日から10日あるのです。

(3)世界断トツの休日数

読者の皆さんは日本という国は本当に劣悪な労働環境なのでしょうか。
今年のゴールデンウィークは10連休。
9月にはシルバーウィークがあります。
休んでますよね。

国際比較でみると年次有給休暇を除いた日本の休日数は23日で世界トップで す。(拙著「経営者が知らない人材不足解消法」176ページ参照)
そもそも15日を超えている国は日本、インド、韓国の三か国だけです。
2014年の統計ですから2日祝祭日が当時より増えますので25日であり断トツの休日数です。

(4)すでにクリアしている休暇日数

この様に考えると我が国の休暇政策は「みんなで一緒に休みましょう」というもの。
年次有給休暇の取得といったマイペースではなく一斉に休むという文化だったのです。
年次有給休暇以外の休暇を平成31年時点では24日(令和2年は25日)になるのですから年次有給休暇を最低でも5日以上付与しなさいという課題をとっくにクリアしている企業が多いわけです。

(5)何に違和感があるのか

以上のように検討をしてきましたが、年次有給休暇を除く休日数は世界一です。
これは前述のとおり「みんなでいっぺんに休もうよ」という休暇政策であり、労働基準法という法律ではなく、労使の慣行として付与してきた休暇なのです。
これが今回の法改正で「みんないっぺんに休もうよ」から「マイペースに休もうよ」という休暇政策にかじを切ったということなのです。
これを理解しなければ年次有給休暇の付与の話は進みません。

3.休暇政策に合わせた対応を

(1)病欠しても賃金カットしない企業

私の顧問先では病欠しても賃金を控除していない会社があります。
しかし年次有給休暇の取得率はゼロ。
社員が休んだら年次有給休暇の処理をせずに賃金の控除もしていないのですから当たり前です。
企業が「この休みは年次有給休暇だったんですね」とこの法改正で気づいたわけです。
今後は年次有給休暇とすればいいだけのことなのです。

(2)365日のうち41%が休みになってしまう?

私が社会保険労務士になった21年前は残業代もしっかりと支払われていませんでした。
しかし賃金水準が低いわけではなく「残業をたくさんしてくれているから基本給を上げる」ということをしていたのです。残業代を基本給に含めて昇給していたわけです。
当時の社会保険労務士はマイナー資格で「何をしているの?」と聞かれるぐらいであり、経営者にとっての人事のブレーンがいなかった時代です。
残業代については定額残業手当を含めてかなり誤解なく合法的な運用がなされてきました。
しかし年次有給休暇に関してはまだまだ誤解が多いのです。
前述のように「社長、それを有給というんですよ!」という企業が結構あります。
年5日の有給取得義務が発生したから、今まで所定休日を年次有給休暇にするのはけしからんというご意見もありますが、そもそも今までは「年次有給休暇」の概念があいまいに運用されていただけなのです。
週休2日とすると年間105日の休日があります。これに前述の23日に山の日、皇太子殿下の誕生日を加えた25日を加えると130日の休日数になります。年間の36.6%が休みなのです。
これに年次有給休暇の20日を加えると、実に年間の41%が休日ということになります。
これでは仕事になりません。
国際比較でみても年次有給休暇を除く休日数が多ければ多いほど、年次有給休暇の取得に数が減ってきます。反比例しているのです。
ですから国際比較でみて我が国は年次有給休暇の取得率が低くて当然なのです。

(3)解決策

具体的な対策として上記の事実を従業員に説明することでかなり理解をしてくれます。
一方で子育てや親の介護がありますから、その点を配慮し年次有給休暇を取得しやすい環境を作りつつ、いままで所定休日としていた長期休暇を年次有給休暇に振り替えることは国際比較をみても法律の主旨からして間違ったものではなく、あいまいであった「休暇の概念」を明確にして労使で歩み寄ることが大切だと思います。

年間休日数は国際比較でみても多いわけですから、マイペースで使える年次有給休暇を取りやすくしながら計画的付与により対策を考えていくことは何ら間違いではありません。

従業員にしっかりと説明をすることを前提に進めていけば大きな反対が起こることなくできるわけです。

どうぞ参考にしてください。

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