メルマガ人事のブレーン社会保険労務士レポート

人事のブレーン社会保険労務士レポート第180号
改正労働基準法における「年次有給休暇5日付与の義務」の詳細

1.はじめに

働き方改革関連法案が成立し、前回は「残業規制」について取り上げました。
今回はご質問の多い年次有給休暇の取得義務についてお話ししたいと思います。

2.年次有給休暇を年間で5日取らせなければならない

(1)年次有給休暇の概要

a.比例付与について

年次有給休暇とは入社して6ヶ月経過後に10労働日付与され、その後1年経過後に付与日数が増えていく仕組みになっております。

週30時間以上又は週5日以上の労働者を常勤者として、それに満たない労働時間の労働者を短時間労働者とし、所謂比例付与といって常勤者よりも少ない日数をその勤務日数等に応じて定めています。

例えば週30時間未満の労働者で週3日働く労働者は6ヶ月経過後に5日付与され最大で11日付与されます。

週2日勤務の労働者であれば6ヶ月経過後に3労働日の年次有給休暇を付与され最大で7日になります。

この様に労働者の勤務日数や勤務時間に応じて付与日数が変わってくるのです。

ここが後に説明いたします点に影響しますのでご理解頂きたいと思います。

b.付与単位について

年次有給休暇の目的は「その労働日に休暇を与え労働からの解放をして休息を与える」ということです。
その暦日の労働を免除することで疲労回復を行う事が目的ですので、1日単位の付与が原則になります。

しかし1日単位では取得しにくいとか、半日だけ私用で休みたいという場合もあるので、半日単位の付与も行っていいですよとなっています。
ここでの注意点は、あくまで「行っていいですよ」なのです。
時間単位の有給付与も同様です。
今回の働き方改革では、この点は変わっていません。

3.改正内容

(1)基準日より1年以内に年次有給休暇を5日付与させる

今回の改正法では、「年次有給休暇は5日絶対に取得させなさい」ということになりました。
年次有給休暇の発生日を基準日といいますが、この基準日から1年以内に取得させなさいという事です。

この付与方法ですが、使用者が労働者ごとに時季を指定することにより行うとされています。

但し、労働者からの指定、労働基準法第39条第5項による計画的付与がなされている場合にはこれらの日数を合算していいですよとなっています。

具体的には以下の通りです。
使用者からの時季指定+労働者からの時季指定+年次有給休暇の計画的付与の合計日数が5日以上であれば法の要件は満たしているということになります。
省令では、使用者が一方的に時季を指定するのでは無く、時季の指定に関して労働者の意見を聴き、尊重することという事になっています。
強制力は無いですが、なるべく労働者の取りたい時季に取らせなさいということになっています。
しかし使用者も人手不足の中、実施するわけですから5日消化させることを当面の目標に実施していくしか無いと思います。

(2)対象者

この5日有給休暇を付与しなければならない労働者は「有給休暇の日数が10労働日以上である労働者に限る」とされています。

この10労働日以上というのは「当該年に新たに発生する年次有給休暇の日数」となります。

先ほど年次有給休暇の比例付与のお話しを致しましたが、週30時間未満の所定労働時間で週3日勤務する労働者は6ヶ月経過後に5労働日発生します。
1年6カ月経過後は6労働日発生します。年次有給休暇の時効は2年ですから1年6カ月の間に1日も年次有給休暇を取得しなかった場合、前年付与分5労働日に加えて、1年6カ月の基準日に6労働日の年次有給休暇が発生します。

5労働日と新たに発生した6労働日を加えた11労働日の年次有給休暇をこの労働者は取得することが出来ますが、使用者が時季を指定しなければならない労働者かどうか判断するには「新たに基準日で発生した年次有給休暇日数」だけをみます。
ですから、この労働者は6労働日ですから時季指定の対象にはなりません。

改正法において、比例付与の日数は変わっておりませんので、10労働日が発生するのは「週30時間未満の所定労働時間」かつ「週3日勤務の労働者が5年6カ月勤務」してからになります。
週1日ないし2日勤務の方は時季指定の対象にはなりません。週3日勤務の方は基準日を6回迎えなければ時季指定の対象とならないのです。
ここに注意が必要です。

(3)施行日

施行日は平成31年4月1日です。
ただし、年次有給休暇は基準日によって発生しますので、正しくは平成31年4月1日以降新たに迎える基準日ということになります。

4.まとめ

我が国の休暇政策は労働者個人が自由に休暇を取得する年次有給休暇よりも、祝日や年末年始、夏季休暇にみんなで一緒に休むというものでした。
ですから拙著「経営者の知らない人材不足解消法」でも述べましたが年間休日数は世界でもトップクラスです。
その上で年次有給休暇を付与するとなると年間の3分の1から8分の3以上は休んでいるという事になってしまいます。

今回の改正法により年次有給休暇の時季指定が規定されましたが、我が国の休暇政策が「みんなで一緒に休みましょう」から「個人のペースで休みましょう」に変わる転換点と捉え年次有給休暇を含めた年間休日数で企業の休暇政策を考えていくべきだと思います。
人手不足の中、しっかりと対策をして行きたいと思います。

人事のブレーン社会保険労務士レポート一覧へ