「定額残業」という考え方は、様々なケースに応用できます。
営業職や機械メンテナンスといった、事業場外で主に活動する職種等、労働時間の正確な把握が困難な労働者、研究職といった労働時間の範囲の確定が困難な労働者、建設業や運送業といった拘束時間が長い職種の労働者、管理監督者等。
これらの労働者については、次回以降、どの様に運用されているのか検討しますが、この様に、定額残業という考え方は、非常に応用が利き、合法的で、実態にあった労務管理をすすめる上で、非常に重要な概念であるわけです。
定額残業として支給している賃金が、残業手当として認められるためには以下の要件が必要です。
上記4点を満たすことにより、名称の如何にかかわらず定額残業手当として取り扱われます。
職務手当や営業手当等の名称でも構わないわけです。
この場合、賃金規程や雇用契約書に明確に定める必要があります。
営業手当を例に、賃金規程の規定と雇用契約書の規定を記載しました。
賃金規程第○条とは、残業計算を規定した賃金規程の条文であります。
雇用契約書の規定例としては以下の通りです。
営業手当 円
(残業手当○時間分として支給する。○時間を超過した場合には賃金規程第○条に基づき、その超過分を別途支給する。)
この様な規定をすることにより定額残業手当として、営業手当が取り扱われるのです。
残業手当は、勤怠管理の結果計算されます。
法的に正しい残業手当を計算するためには、厳格な勤怠管理が必要になります。
例えば、喫煙を例に考えてみましょう。
喫煙の為に、喫煙ルーム等のスペースに移動し、喫煙をする。
一本のたばこを吸う為に最低でも10分はかかるとしましょう。
この時間は厳密にいえば休憩時間と考えられる可能性が高いです。
しかし、誰が何本たばこを吸ったのか、誰が何分給湯室にいたのか。
この様な管理は出来ません。
その結果、実態として休憩時間と同様の行為をしているにもかかわらず、その時間の賃金は支払われているという結果になります。
しかし、喫煙や許容範囲内の談笑という行為を全面的に禁止することも現実的ではありません。
この様な時間が1日仮に30分あったとすれば「1日8時間の所定労働時間+談笑、喫煙等の時間として30分の残業手当」については、固定的賃金とします。30分については、談笑や喫煙につかっても文句は言いませんから、現行の賃金に組み込ませてくださいと話し合ってみることも良いかもしれません。
これにより厳格に勤怠管理をしたい経営者と、息苦しい職場にしたくない労働者との妥協点が見出せるのです。
「初出:週刊帝国ニュース東京多摩版 知っておきたい人事の知識 第4回 No.692 2010.3.16号」