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人事のブレーン社会保険労務士レポート第210号
70歳までの雇用努力義務について

1.はじめに

高年齢者等雇用安定法が改正されて令和3年4月1日より65歳から70歳までの継続雇用について努力義務が課せされました。
努力義務ですので現行の制度のままでも法的には問題ありませんが、人手不足や熟練した労働者の確保等で65歳以上の高齢者を雇用している企業も多いです。
その点を踏まえてお話ししたいと思います。

2.定年と定年後の継続雇用の枠組み

高年齢者等雇用安定法では年齢を理由とする退職は65歳までできないとされています。
ですから65歳まで労働者を雇用することは企業の義務となっているのです。
しかしその中で定年という概念で労働条件を変更することができます。この定年については60歳以上でなければならないとされています。
今回の法改正でこの枠組みは変わりません。
・定年を65歳までにする
・定年後65歳まで再雇用する
・定年の廃止
これが高年齢者雇用確保措置といわれるものであり全ての企業に義務化されています。

定年の延長や廃止というのは一見労働者に有利に見えますが、定年まで働かないと自己都合退職になります。
自己都合退職では退職金が減額されたり、雇用保険の失業等給付に影響が出ます。
59歳と60歳の体力差はあまりありませんが、59歳と64歳では個人によりますが大きく差がある方もおります。
また高齢で子ができた場合大学を卒業させるためには70歳以降でも働かなければならかいとう事情を抱えた方がある一方、60歳で近所にお孫さんがいて孫にお小遣いをあげられる程度の収入でいいという方もいらっしゃいます。
60歳以降のセカンドライフについてはそれぞれの事情があり、多様な価値観を受け入れる制度設計が望ましいと考えておりますので、定年を60歳としてそれ以降についてはそれぞれの事情を踏めて再雇用を行うことが望ましいと考えます。

3.高年齢者就業確保措置

今回の法改正で「高年齢者就業確保措置」が設けられました。これは努力義務です。
65歳から70歳までの労働者に以下の措置を行う努力をせよという内容です。
・定年年齢の引き上げ
・継続雇用
・定年の廃止
・創業支援措置

この4つです。
創業支援措置以外は高年齢者雇用確保措置と同様でありますので省略いたします。

4.創業支援措置

(1)概要
創業支援措置とは一言でいえば「自社雇用契約以外での就業確保をしてください」という制度です。委任契約や請負契約。また関連する企業以外での雇用等により70歳までの就業を確保してくださいということです。
手続きはご述しますが簡単にいうとこの通りです。

(2)委任契約等
労働者として65歳以降引き続き再雇用を行う以外に、当該労働者と委任契約や請負契約を締結して引き続き従前の様に業務を行ってもらうということです。
「労働者を外注にすればいいのか」と思われる方も多いと思いますが、労働者性を否認できるように環境を整えなければ、実質的に労働契約であるとされると労働基準法や最低賃金法の適用そして各種社会保険の加入も必須になりますので簡単にはできません。
しっかりと専門家と相談して「委任契約」や「請負契約」として問題のない実態が必要になります。
飲食業や理美容業でこの様なご相談を受けますが、簡単ではありません。形式的な契約では企業にとってリスクが大きいので専門家に必ずご相談ください。
(3)社会貢献事業
「高年齢者が希望する場合で、以下の事業を実施するものが当該高齢者との間で当該事業に係る委託契約その他契約を締結し、当該契約に基づき当該高年齢者の就業を確保する措置」となっています。
分かりにくいですが話を進めます。

1 当該事業主が実施する社会貢献事業
これは事業主が直接実施する社会貢献事業に委任契約や請負契約等により就業確保することです。雇用契約ですと直接雇用になりますので創業支援措置にあたらず通常の継続雇用等になってしまう為です。
2 法人その他の団体が当該事業主から委託を受けて実施する社会貢献事業
これは事業主が他の団体に委託をして行っている社会貢献事業
3 法人その他の団体が実施する社会貢献事業であって、当該事業主が当該社会貢献事業の円滑な実施に必要な資金の提供その他の援助を行っているもの

(4)創業支援措置の実施に関する計画
創業支援措置を行う場合には過半数組合又は過半数代表者と労使協定を締結しなければなりません。行政機関への届け出は必要ありません。
内容については省略いたします。
また労使協定とは別に創業支援措置を行う場合には労働者の過半数の同意が必要とされています。
しかしこの協定が締結されるということは過半数の同意が得られていることと同義になりますので、協定書の中に「過半数以上の労働者が同意した」という主旨の条文を入れておけば問題ないと考えられます。

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