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人事のブレーン社会保険労務士レポート第204号
正しい給与計算の法的知識

1.はじめに

新型コロナウイルス感染症拡大により雇用調整助成金の申請が増えております。
色々な企業の申請をお手伝いする中で残業の計算が間違っているケースが多いです。
残業代を意図的に低くするためにしているのではなく、昔からそれが正しいと思ってやってきたというケースが殆どです。
社会保険労務士は税理士より関与率が低く、社会保険の手続きは社長の奥様がずっとやってきたという会社が多くあります。
しかしこのような企業では社会保険労務士が関与しておりませんので残業の計算が正しい方法であったかが検証されないできたのです。
今回は間違えやすい点を掘り下げてお話ししたいと思います。

2.年間平均月間所定労働時間

残業代を計算するにあたり分母となるのは「年間平均月間所定労働時間」です。
月の所定労働時間を年間の平均値で出したものです。
年間の所定労働時間の合計を12で除したものになります。
これが残業代計算にあたっての分母になります。
168とか173に固定している企業がありますが、これはその年によって変わるのもであります。
またフルタイムの社員と、短時間勤務の社員では所定労働時間が違いますからこの分母となる「年平均月間所定労働時間」は変わってくるのです。
数字が大きければ単価が低くなりますから、未払い賃金の可能性も出てきます。
数字が小さければ最低賃金の計算時に月額の最低賃金額が低くなります。
正しく計算をしなければ労働基準法第24条違反と第37条違反だけではなく最低賃金法違反にもなる可能性があるのです。
労働基準監督官の臨検時にもここをしらべる方とそうでない方がいらっしゃり、あまり重要視されていないですが、未払い賃金請求事件ではこの点を指摘されることも多いです。

3.割増賃金の計算の基礎に入れない賃金

割増賃金の計算には基本的にすべての賃金を入れなければなりません。
しかし例外として一定の条件を満たせば入れなくてもいいとされている賃金があります。
この賃金についても「一定の条件」に合致していないにもかかわらず割増賃金の計算に入れていないケースが見受けられます。

(1)通勤手当
通勤手当は、労働者の自宅からの距離に応じた額が支払われていることで割増賃金の計算に算入しなくていいことになります。
通勤手当が一律10,000円という会社もありますが、これは通勤の距離に応じて支払われていないこととなり割増賃金の計算に入れなければなりません。
所得税法上の非課税交通費とはリンクしておりませんので、仮に所得税法上で課税交通費となっていても、通勤の距離に応じて金額が支払われていれば問題ありません。

(2)家族手当
家族手当は、その労働者の家族の人数に応じて支払われる場合に残業の単価に入れないでよいということになります。
配偶者、子、父母など範囲は法律で定められておりませんが、その家族の人数に応じて金額が定められている場合に割増賃金の基礎から除外していいということになります。
「世帯主に対して支払う」「持ち家の労働者に対して支払う」場合には「家族の人数に応じていない」こととなり、割増賃金の計算の基礎に入れることとなります。

(3)別居手当・子女教育手当
別居手当は単身赴任に伴う住居や光熱費等の負担増に対する手当であり、子女教育手当は子供の教育費の援助を目的とした手当であり、この目的のための手当であれば該当します。

(4)臨時の手当・一か月を超える期間ごとに支払われる賃金
臨時の手当は所謂大入り袋であり、一か月を超える期間ごとに支払われる賃金は賞与であります。
ただし賞与については「支給額が確定していないもの」であり、確定している場合には割増賃金の計算の基礎に算入する必要があります。例えば年俸制で年俸額を16で除し、12は毎月支払うこととし、残りの4は夏季と冬季に賞与として支給するケースは供与額が確定しているために年俸額を12で除して算出することが必要になってきます。
この点を誤解されているケースが多いです。
また社会保険では4回以上賞与を支給すると算定報酬月額の算定の基礎に入れなくてはならず注意が必要です。

(5)残業手当としての主旨で支給している賃金
定額残業手当や深夜手当の代わりとして支給している夜勤手当などが該当します。
これについては定額残業手当等が認められる為の要件を満たしていなければならず、就業規則や雇用契約書にその旨を記載しておく必要があります。

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