メルマガ人事のブレーン社会保険労務士レポート

人事のブレーン社会保険労務士レポート第196号
年次有給休暇と残業及び法定休日出勤との関係

1.はじめに

働き方改革が本格的にスタートし、年次有給休暇の5日付与義務に関連して、年次有給休暇取得時の残業についての考え方や法定休日との関係についての問い合わせが増えてきました。
労働法関連の学術書においてもそのものずばり記載しているものを見たことがなく今回まとめてみました。

2.年次有給休暇と残業時間

(1)概要
労働基準法では法定労働時間として一日8時間、一週40時間とされており、それを超過した場合には1.25倍の割増率による割増賃金を支払う必要があります。
この点については皆さんもご理解頂いていると思います。

(2)半日の年次有給休暇を取得した場合には割増賃金はどこから払えばいいのか
年次有給休暇は原則として1日単位の取得が原則ですが、所定の手続きにより時間単位や半日単位で取得することもできます。
では午前中に半日の年次有給休暇を取得した労働者が、その日に終業時刻を超えて残業をした場合はどの様に労働時間を計算すればいいのでしょうか。
労働基準法は実労働時間主義を採っており、法定労働時間を超えて労働した場合に割増賃金を支払う義務が生じます。
例えば始業時刻が9時で終業時刻が18時で休憩時刻が正午から13時までの会社で午前中半休を取った社員がいたとしましょう。
午前9時から正午までは年次有給休暇で休み。
13時に出社して22時まで勤務し退社したケースで考えます。
労働基準法は実労働時間主義ですから実際の労働時間が8時間を超えなければ割増賃金を支払う必要はありません。
今回の事例では複雑になる為に休憩時間は取得しなかったものと考えます。休憩を取得した場合にはその時間は働いていませんから当該時間を控除して考える事はご理解頂いていると思います。
13時が始業時刻ですから21時まで働きますと8時間労働になります。ですから割増賃金は21時以降の時間について発生します。
しかしこの労働者は年次有給休暇を取得しておりますので18時以降の労働時間について何らかの手当をつけなければただの始業時刻の繰り下げになってしまい、年次有給休暇を取得したことにはなりません。
18時から法定労働時間までの21時の時間については割増賃金の必要はありませんが、1倍の賃金を支給する必要があります。
9時から12時 年次有給休暇
13時から18時 所定労働時間
18時から21時 1.00の賃金を支払う
21時以降 1.25の割増賃金を支払う
途中休憩を取得すればその時間を控除しますので、その分上記時間はずれてきます。
また22以降は深夜手当の対象になります。

同様のケースで9時から10時まで時間有給を取得した場合
9時から10時 年次有給休暇
10時から18時 所定労働時間(12時から13時は休憩時間)
18時から19時 1.00の賃金を支払う
19時以降 1.25の割増賃金を支払う

この様になるのです。

深夜手当につきましては労働時間の長さによらず、22時から5時までの時間帯について支払うものですから年次有給休暇の取得に左右されるものではありません。

(3)年次有給休暇を取得した際の所定休日労働
労働基準法では週に一度休日を付与しなければなりません。これを法定休日と言います。
法定休日に労働させた場合には1.35の割増賃金が必要になります。
では何故週休2日という概念があるかというと一日の法定労働時間が8時間、一週の法定労働時間が40時間とされており、8時間労働を5日すると40時間になる為に法定休日に加えてもう一日休日労働が必要になってきます。
この休日を所定休日といい、法定休日と違いあくまで1週40時間の調整として付与する休日になります。40時間という法定労働時間の調整のための休日ですからこの休日に仕事をした場合には残業扱いになります。
月曜日 勤務
火曜日 勤務
水曜日 勤務
木曜 年次有給休暇
金曜日 勤務
土曜日 所定休日
日曜日 法定休日
この様なケースで土曜日に休日出勤したとしましょう。
この週は日々の残業がないと仮定します。
土曜日に出勤しなければ実労働時間は32時間です。
土曜日に出勤したとしても実労働時間は40時間になります。
労働基準法は実労働時間主義とお話いたしました。
ですから40時間以下であるために土曜日の出勤については1.25倍の割増賃金を支払う必要はありません。
しかし前述したように年次有給休暇を取得しましたので、1.00の賃金を支払う必要があります。

3.年次有給休暇と法定休日

(1)休暇と休日の違い
専門的な話になりますが休暇とは「労働義務があるが労働を免除されている日。休日とは「労働義務がない日」です。
年次有給休暇ですから、この日は労働義務がある日になります。
労働義務のない日に年次有給休暇を取得できないのはこの為です。

(2)法定休日は年次有給休暇に影響されない
年次有給休暇は労働義務のある日ですから、年次有給休暇を取得しても「出勤」という概念になります。
ですから年次有給休暇を取得した週に法定休日出勤をしても残業時間の場合と違い1.00を支払えばいいという考え方にはなりません。1.35の割増率で休日手当を支給する必要があります。

月曜日 出勤
火曜日 出勤
水曜日 出勤
木曜日 年次有給休暇
金曜日 出勤
土曜日 出勤
日曜日 法定休日に出勤
上記のケースでは木曜日に休んでいますが、あくまで休暇ですので労働義務が免除されておらず「出勤」の概念のです。
よって日曜日の法定休日出勤は1.35の割増率の休日手当が必要になるのです。

4.まとめ

年次有給休暇と残業時間、法定休日の関係は労働基準法の基礎をしっかりと理解していなければ処理を間違ってしまいます。
年度末にかけて年次有給休暇の強制付与を行う予定の会社があると思います。どうぞ参考にしてください。

人事のブレーン社会保険労務士レポート一覧へ