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人事のブレーン社会保険労務士レポート第195号
職場におけるパワーハラスメントに関して雇用管理上講ずべき措置等に関する指針について

1.はじめに

労働施策総合推進法によりパワーハラスメント防止に関して事業主に雇用管理上の措置を講ずることが義務づけられました。
施行日については令和2年6月1日であり、中小企業庁「中小企業・小規模事業者の定義」に該当をする中小企業については令和4年4月1日となります。
それに伴い厚生労働省から「職場におけるパワーハラスメントに関して雇用管理上講ずべき措置等に関する指針」の素案が出されました。
指針ではまず「パワハラの定義」を行い、「事業主がパワハラ防止に対して取り組む責務」を明らかにし、パワハラが発生した場合の「相談窓口等の設置」や「対応」を明確にしています。
順を追ってお話ししたいと思います。

2.パワハラの定義

(1)概要
パワハラとは「職場において行われる」「優越的な関係を背景とした言動であって」「業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより」「労働者の就業環境が害されるものであり」「前述の要件全てを満たすもの」とされました。
すべての要件を満たすというのは「」内のことです。

(2)職場とは
ここでいう職場とは会社内というような特定の場所的なものではなく、労働者が業務をするすべての場所という考え方です。
また労働者の概念も派遣労働者を含めたものになります。

(3)優越的な関係を背景とした
これは当該事業主の業務を遂行するにあたり、当該言動を受ける労働者が行為者に対して抵抗又は拒絶することが出来ない蓋然性が高い関係を背景に行われるものとあります。
「職務上の地位が上位の者による言動」「同僚又は部下による言動で、当該行為を行う者が業務上必要な知識や豊富な経験を有しており、当該者の協力を得なければ業務の円滑な遂行を行うことが困難であるもの」「同僚又は部下からの集団による行為で、これに抵抗又は拒絶することが困難であるもの」とされています。上司だけではなく、同僚や部下も加害者になりうることが明記されています。

(4)業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより
当該言動が明らかに当該事業主の業務上必要がない、又はその様態が相当でないものとされています。「業務上明らかに必要のない言動」「業務の目的を大きく逸脱した言動」「業務を遂行するための手段として不適当な言動」「当該行為の回数、行為者の数等、その様態や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える言動」とあり、この場合は様々な要素を総合的に勘案して判断するとしています。

(5)職場環境を害すること
当該言動により労働者が身体的又は精神的に苦痛を与えられ、労働者の就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じる等当該労働者が就業するうえで看過出来ない程度の支障が生じる事とされています。
この判断にあたっては「平均的な労働者の感じ方」を基準として考えます。

(6)まとめ
パワハラとは上記内容の程度を総合的に勘案して判断することとなります。

3.事業主の責務

事業主はパワハラに関する啓発活動を労働者にするとともに、研修等を行い国が講ずるパワハラの広報活動や啓発活動等に協力をするよう に努めなければならないとされています。
また労働者の責務として労働者自身がパワハラに関する知識を深め、他の労働者に対する言動に注意を払うとともに、事業主が講じる措置に協力をしなければならないとされています。

4.事業主がパワハラに起因する問題に関し雇用管理上講ずべき措置

(1)事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発
大きく分けて2つあり、「職場におけるパワーハラスメントの内容及び職場におけるパワーハラスメントを行ってはならない旨の方針を明確化し、管理監督者を含む労働者に周知・啓発する事」「職場におけるパワーハラスメントに係る言動を行ったものについては、厳正に対処する旨の方針及び対処の内容を就業規則その他の職場における服務規律等を定めた文章に規定し管理監督者を含む労働者に周知・啓発する事」です。
研修等を通じてパワハラについての理解を深めるようにしたり、社内報やパンフレットなどで広く知らしめることが求められています。
またパワハラの加害者については懲戒処分の対象になることを含めて懲戒処分の内容をしっかり定め理解させるようにしなければならないという事です。

(2)相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
これも2つあり「相談窓口を予め定め、労働者に周知する」「相談窓口の担当者が。その相談に対し、その内容や状況に応じ適切に対応するようにすること。また相談窓口においては、被害を受けた労働者が委縮するなどして相談を躊躇する例もあること等その心身の状況にも配慮しつつ、職場におけるパワーハラスメントが現実に生じている場合だけではなく、その発生の恐れがある場合や職場におけるパワーハラスメントに該当するのか否か微妙な場合にあっても、広く相談に対応し、適切な対応を行うようにすること。」とされています。

(3)職場におけるパワーハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応
これは「事案に係る事実関係を迅速かつ正確に把握する事」「職場におけるパワーハラスメントが生じた事実が確認できた場合においては、被害者に対する配慮の為の措置を適正に行う事」とされています。
事実確認は非常に大事でありますが、相談者の心身の状況にも適切に配慮しながら行わなければなりません。事実確認の課程で、加害者から相談者が更なるパワハラが行われないように十分に配慮しながら進める必要があります。
また、パワハラが確認された場合には「被害者と行為者の間の関係改善に向けての援助」「被害者と行為者を引き離すための配置転換」「行為者の謝罪」「被害者の労働条件上の不利益の回復」「管理監督者又は事業場内産業保健スタッフ等による被害者のメンタルヘルス不調への相談対応等」の措置を講ずるとされています。
そして加害者に対しては「職場におけるパワーハラスメントが生じた事実が確認できた場合においては、行為者に対する措置を適正に行う事」とされています。
懲戒処分を行う事や前述の被害者への対策と同様に関係改善へ向けての措置や配置転換、謝罪なども行うこととなります。
そして発生したパワーハラスメントの事実を踏まえ、事業場内で再びパワハラが発生しないように再発防止のために研修や方針の周知・啓発活動を行うこととされています。パワハラの事実が確認できなくても同様の措置を講ずることとされています。
(4)プライバシーの保護
上記の対応をする為には加害者や被害者のプライバシーに属する問題に触れることから、そのプライバシーを保護するための必要な措置を講ずる必要があります。相談窓口の担当者の研修であるとか、どの様に事実確認を行うことがプライバシーの保護につながるとか等を検討してマニュアルを作成するなどの措置が求められています。
事案によっては事実を明らかにすることにより被害者が二次的な被害にあうことも想定でき、適正な情報管理が求められてきます。専門家に相談をしながら進めていくことが望まれると考えます。
またパワハラの相談や告発をした労働者に不利益な取り扱いをすることは禁止されています。

5.パワハラに起因する問題に関し行うことが望ましい取り組み

セクシャルハラスメントをはじめとした他のハラスメントの相談窓口とパワハラの相談窓口を一本化する事とされています。また、職場のコミュニケーションが円滑になるような施策やノルマ等が適正なものになるような取り組みが求められています。

6.その他

労働者だけではなく個人事業主やインターシップ生などにもパワハラ等が行われないように配慮することとし、顧客等からの激しい迷惑行為についてもパワハラと同様の対策をすることが望ましいとされています。

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