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人事のブレーン社会保険労務士レポート第194号
タイムカードと労働時間

1.はじめに

働き方改革を進める中で、正確な労働時間の把握をどうしたらいいのかというご質問をよく受けます。
具体的にはタイムカードを集計する場合、タイムカードの打刻時間を一分単位で集計をして残業手当を支払わなければならないのかというご質問が多いです。
労働時間については一分単位で支払うことが求められておりますが、労働時間イコールタイムカードの打刻時間ではありません。
この点を今回掘り下げていきたいと思います。

2.タイムカードの打刻時間

タイムカードの打刻をどのタイミングで行うかという問題です。
朝早く来てタイムカードを打刻する。打刻後、コンビニエンスストアで買ったパンと牛乳を食べながら新聞を読む。
この様な朝のルーティンを行っている方も多いと思います。
打刻後に朝食を食べているのですから、打刻時間が始業時刻ではありません。
始業時刻まで仕事をしていなければ打刻時間で労働時間の集計を行う必要はないのです。
ですからタイムカードの打刻時間というのは正確な労働時間の記録ではないという事です。
しかし、パンを食べながらメールチェックをだらだらしていたら話が変わります。
だらだらでもメールチェックは仕事ですから当然労働時間になります。
始業時刻にタイムカードを打刻させるのか、打刻時間後、始業時刻まで仕事をさせないことを徹底するのか。
これが大事になってきます。
これを徹底していればタイムカードの打刻時間が労働時間の開始とはなりません。

3.退勤猶予時間

仕事が終わりタイムカードを打刻するまでの時間を「退勤猶予時間」と言います。
仕事を終え、湯飲み茶わんを片付けタイムカードを打刻する。
仕事を終えてからタイムカードを打刻するまでに仕事ではない時間があります。
ですからタイムカードの打刻時間が終業時刻になるわけではなりません。
この時間をどうするのか。5分はかかるとすれば勤怠は5分単位の集計としても正確な労働時間を把握することが出来ます。
目的は正確な労働時間の把握です。タイムカードの打刻時間が正しくないのであれば、正しく計算するための方法を採用することは法律的に問題ないのです。
15分単位で労働時間の集計をしている会社もありますが、退勤猶予時間の観点からすると、仕事を終えてから打刻するまでに15分もかかる合理的な理由を説明できるのかということが問題なのです。退勤猶予時間の観点から3分単位や5分単位で集計することは法律的に間違っているわけではないのです。

4.訴訟上のリスク

法律的に間違っていなくても訴訟上のリスクはあります。
退勤猶予時間が正しいのか。打刻してから始業時刻まで本当に仕事をしていないのか。
これを証明しなければなりません。
始業時刻については始業時刻直前にタイムカードを打刻するように徹底することでリスクは回避できますが、退勤猶予時間についてはその証明が難しいのです。
毎日湯飲み茶わんを洗って帰るとは限りません。
トイレに行ってからタイムカードを打刻していたとしてもそれを証明するのは難しいのです。
3分や5分といった時間が退勤猶予時間として正しいのかどうかを証明することは難しいのです。
労働者に退勤猶予時間という概念を理解してもらい、それを踏まえて行動してもらうことが重要になります。
従業員全員に退勤猶予時間の概念を説明し、その時間の合理性を納得してもらう会議を録画しておくことも一つのやり方ですし、文書で納得してもらいサインをしてもらうこともひとつのやり方です。
しかし、それをしたからと言って裁判所が退勤猶予時間を認めてくれるとは限りません。
労働時間イコール打刻時間となるような労働者の打刻に対する意識改革が大事になってくるのです。
働き方改革では、労働者との意識の共有が大事になってくるのです。

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