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人事のブレーン社会保険労務士レポート第185号
1.5を乗じた60時間を超える残業手当の中小企業の特例について

1.はじめに

働き方改革関連法案の中で誤解が多いポイントは中小企業に猶予されていた60時間を超える残業時間に対する割増率についてです。

平成22年の労働基準法改正において残業時間を抑える目的で月60時間を超える残業をした場合には、その超えた時間に対して2割5分の割増率ではなく、5割の割増率で時間外手当を計算することになりました。

しかし組織的にも大きくなく、資力がない中小企業については一定の期間猶予されることとなりました。

平成31年4月1日よりこの猶予期間が終了するという勘違いをされている方が多いのですが、猶予期間は終了するのは平成35年3月31日です。
平成35年4月1日より割増率の中小企業に対する猶予措置は廃止されます。本年から変わることはなく、今まで通りであるということをご理解いただきたいと思います。

2.中小企業とは

(1)対象となる中小企業

平成35年3月31日まで割増率の経過措置が適用されている中小企業は以下の通りです。

・小売業及び飲食業
 資本金の額または出資の総額5,000万円以下
 または 常時使用する労働者数50人以下

・卸売業
 資本金の額または出資の総額1億円以下
 または 常時使用する労働者数100人以下

・サービス業
 資本金の額または出資の総額 5,000万円以下
 または 常時使用する労働者数100人以下

・その他業種
 資本金の額または出資の総額 3億円以下
 または 常時使用する労働者数 300人以下

「または」という表現ですので、これについてどちらかに該当する場合については経過措置が適用となり「中小企業の特例」の扱いになります。

(2)資本金の額または出資の総額

株式会社を除いて資本金というものはありません。その場合は出資金等の出資総額で判断します。
しかし財団法人等出資の概念がない組織があります。
基本財産というものがありますので、その基本財産の額でこの出資の総額を判断することもできます。
しかし行政のQ&Aでは財団法人等出資金の概念がない場合には常時使用する労働者の数のみで判断するとされていますが、あくまでQ&Aですので法令集には載ってきません。

60時間超の5割の割増率は違反すると労働基準法第24条及び第37条に抵触します。 当然刑事罰の対象になりますので、罪刑法定主義に基づかなければなりません。
法令集に載らない解釈で法を運用することは非常に乱暴であり、財団法人等に対する適用については法律に基づくものであるべきです。
この点ついては最低でも通達等で判断すべき問題であり、法的には未だ正式な解釈が出ていません。
厚生労働省の外郭団体が出版している解説本に載っていて法令集に載っていない解釈で我々に刑罰を科せるのかという議論になります。
ちなみにこの法律による中小企業の概念は中小企業基本法の「中小企業」の定義によります。
中小企業基本法は、会社法に基づく組織に対するものであり財団法人や社団法人、NPO法人等は対象になりません。
法律の欠陥であることは間違いありませんので、厚生労働省の判断が期待されるわけです

(3)常時使用する労働者の数

タイムカードの数と同数ということになります。
常に働いている労働者という概念でなく、在籍している労働者の数になります。

3.まとめ

今回の働き方改革の中で施行日がまちまちで混乱しているところがあります。
例えば、年次有給休暇の5日付与については平成31年4月1日以降に新たに 付与する年次有給休暇から適用になります。

施行日を確認することによりしっかりと準備することが必要です。

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