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人事のブレーン社会保険労務士レポート第183号
何故ちょっと叱っただけでパワハラと言われてしまうのか

1.パワーハラスメント

パワーハラスメントについて企業側の立場で対策や問題の解決を行ってきました。
中には暴力によって怪我をするような事案もあり、これについては刑事責任を負うこととなります。
暴力をふるったり、「この世の中に存在する価値はない」といった人格を否定する発言。
暴力団が使用する様な言葉遣いで叱責するなどといった事案は、加害者である上司は反省をすべきであるし、対策を立てなけれなりません。

これらの行為は許されるものではないわけです。

しかし通常の指揮命令権の行使として許容される範囲内での叱責も「パワーハラスメント」と主張させることがあります。

「怖くて注意できない」という上司も出てきたりと私自身頭を悩ませていました。
この問題について私なりに整理をしたので今回は掘り下げてみたいと思います。

2.大人を怖がらない子供たち

私はPTA会長を6年務めており、また保育園を運営する社会福祉法人の理事を拝命しております。
教育現場で発生する問題に長年関わっていて教員も子供に対する叱り方で悩んでいるのです。

私は昭和49年生まれでして、小学生時代から教師は怒ると怖く、時には鉄拳制裁もありました。自宅に帰ると「先生に怒られたことで、さらに親から怒られる」といった時代でした。
子供ごごろに「大人は怖い」と思ったものでした。親は教師を批判することなく、その判断を受け入れていましたから教師に対しては「尊敬する人」という思いがありました。
じつはこの感覚が生きていくうえで大切であり、今のパワーハラスメントの問題はこの関係がおかしくなったから生じたものであると思います。

今の時代において教師が鉄拳制裁をしようものなら大変なことになります。退職をしなければならない状況に追い込まれます。

これは親が教師を責めるからです。
子供にしたらラッキーなことです。

教師は委縮しますから強く怒れません。

親も教師の判断を批判しますから、教師に対して尊敬の念も生まれません。

この様な環境で子供たちは「大人は怖くない」と思ってしまいます。

そして権利の主張をすれば「大人に対して有利な交渉ができる」という学習をしてしまうのです。

この様な環境で育った子供たちは大人の扱いを知っていますから社会人になった際には幼少期からの経験をもとに大人である上司に対応するのです。

教師が上司に置き換わっただけで基本的な理屈は変わりません。

これが「許容されるべき指導においてパワーハラスメントであると主張される論理」なのです。

「大人は怖い」「教師は尊敬する立場の人」という家庭における教育がなければこの問題は解決しないのではないかと思います。

3.理不尽な経験をしてきていない新入社員

子供のころから「大人を怖くない」と思って育ってきた新入社員に対してはどのような対策をとればいいのでしょうか。
上下関係の厳しい部活などを経験してきた新入社員は比較的「大人は怖い」と思っている傾向があります。
部活動を通じて理不尽なことを乗り越えて来ないと引退までたどり着きませんから、組織内で理不尽なことが起きないなんてありえないという感覚が経験の中で育ってきています。
この理不尽な経験をしているのかどうかがポイントになります。
「自分が悪くなくても怒られる」「共同責任を取らされる」「お客様から強い口調でクレームを受ける」「行きたくないのに行かされる」など挙げたらキリがありませんが、この様な経験を自分の力で乗り越えたことのない新入社員にとっては「人生初めての理不尽なことへの対応」となるのです。

学校では教員が気を遣ってくれましたし、親も守てくれました。

社会人になれば自分で乗り越えるしかありません。
上司はこの点を理解しておらず「社会人のくせに何言ってんだ」ということになるのです。
「理不尽な経験」は組織の中では避けられないということを認識していない新入社員ですから「理不尽なこと」=「パワハラ」という論理になってしまうのです。

4.理不尽な経験を社内でどのように積ませるかが大切

新入社員に理不尽な経験を積ませることが大切になってきますが、いきなり本人に「やりなさい」といってもパワハラだと前述の理屈に様になってしまいます。
手間はかかりますが、同行させて上司や先輩たちが理不尽な経験をする場にいさせるのです。
「それが仕事なんだ」と理解させるためにはこれ以外方法はありません。理不尽な経験の「対応方法がわからない」「気持ちの処理をどうしたらいいのかわからない」という問いに対する答えを出してあげればいいのです。
日本の教育制度がその様になってしまっている以上、企業が手間をかけるしかないのです。
人材の定着率を上げるために、そして「理不尽なこと=パワハラ」であるということではないと理解させ、組織の指揮命令系統が乱れないようにするためにも努力が必要になってきます。

参考にしていただければ幸いです。

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