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人事のブレーン社会保険労務士レポート第178号
有期労働契約の無期転換に際しての「使用者の同一性」とは

1.無期転換の本質的検討

無期転換のルールによる労働契約の無期転換がいよいよ発生してきます。 無期転換については、数ある労働契約のなかで「雇用期間」のみが変わる制度です。
賃金や労働時間そして社員の身分は変わらず「期間の定めのある労働契約」から「期間の定めの無い労働契約」に変わるだけなのです。

また、東芝柳町工場事件や日立メディコ事件などにより所謂「雇い止めの法理」が確立しており、解雇に準ずる理由がなければ使用者側から一方的に更新を拒否することは出来ないことはご存じの通りです。

期間の定めのある労働者が不安定な雇用であるということは判例上無いわけです。

しかし無期転換を法制化したことで有期契約の更新は5年を上限とするといった取り決めがなされ、結果として有期労働者の雇用形態が不安定になったことは事実です。

私がよくお話をするのは以下の点です。
第一に、無期転換により変わるのは「雇用期間」だけであり、他の労働条件は変わらないので人件費が増えるわけでは無い
第二に、無期転換されたとしても判例により、また労働契約法により、そもそも有期雇用を更新しない場合には解雇に準ずる理由が必要であり、有期雇用が無期転換されたとしても、その労働者を解雇する為の交渉は実質的に変わらないので必要以上に無期転換を怖がる必要が無い。
第三に、そもそも有期雇用の労働者が5年間問題なく勤めたのであれば、人手不足の現状を鑑みて引き続き雇用されることは企業経営上リスクは無いのではないか。
この3点です。

特に第二の部分は重要であり、解雇実務に携わる私としては実務上それほど影響が無いというのが率直な感想です。

むしろ無期転換させたくない労働者については5年も待たずに当該労働者としっかりと話し合うことが重要だと思います。

2.使用者の同一性

中小企業の後継者不足は深刻であり、M&Aが増えています。
その中でどの様な場合に「労働契約の通算」が引き継がれないのかというご質問をお受けします。
今回はそこを掘り下げたいと思います。

使用者の同一性は、基本的に法人単位です。
法人が同じであれば継続し、転籍すればリセットされます。
しかし、無期転換逃れの為に関連会社をつくり、数年ごとに転籍を繰り返す行為は「法を潜脱するものとして通算契約期間としてカウントする」との厚生労働省の見解があります。

合併や企業分割においては労働契約が承継されますから同一の事業主として勤務期間の通算が引き継がれます。

しかし事業譲渡においては労働契約は自動承継されませんから、勤務期間の通算はリセットされます。

この事業譲渡について譲渡先会社と譲渡元との会社に「実質的同一性」が認められれば譲渡元会社との同一性が保持されることと成り勤務期間はリセットされず通算されてしまいます。
労働契約の承継については民事であり、最終的には裁判所が判断することですから司法の判断は出ていない現状ではこの程度の判断基準しか示すことが出来ないということになります。

しかし冒頭でお話ししたように「無期転換」による企業側のリスクは大きいものでは無いので、神経質にならずともよいと考えます。

裁判所が「実質的同一性」があると判断しないように社会保険労務士だけでは無く、税理士とも相談した上で総合的な対策が必要であるということは間違いありません。

不安な点があれば顧問の士業を集めて対策会議をすることをおすすめします。

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