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人事のブレーン社会保険労務士レポート第177号
能力が発揮できない部下に対して向き合うための基礎知識

1.はじめに

「忙しいから人を採用したのに、全然変わらない。むしろ忙しくなった。」
この様な声を21年前に社会保険労務士になった当時からお客様から伺い、何でだろうかと悩み研究してきました。

その結果、「経営者の知らない人材不足解消法」にまとめたとおりになります。
しかし、そこでお話ししきれなかった細かい点について今回お話ししたいと思います。

2.ローカルルールの大切さ

(1)定型的なローカルルール

ローカルルールを把握することの重要性は著書で繰り返しお話ししました。
専門的な能力を如何に持っていても、それを発揮するのは組織においてです。
組織でその専門的な能力を発揮するための能力がローカルルールを把握することなのです。

例えばA信用金庫で出納業務をしていた社員が、B信用金庫に転職をして出納業務を担当した。
出納業務は同じです。
しかし使用している業務システムも違いますし、書類の書き方や決裁の方法も違うでしょう。
転職先で「出納業務」という能力を発揮するためにはまず転職先の信用金庫の業務システムの使い方を覚えなければなりません。
決裁の方法や書類の特徴も覚えなければ成りません。
「金融機関の出納業務」という定型的な業務でさえ、その金融機関独自の業務のやり方を覚えなければ成りません。

(2)非定型的なローカルルール

定型的なローカルルールも大切ですが、マニュアル化できない非定型的なローカルルールの方が大切なのです。
別の言い方をすれば「職場の雰囲気」や「職場の文化」と言えます。
職場の文化を把握した上で、定型的なローカルルールを覚えてこそ初めて能力を発揮できるのです。

21年間社会保険労務士をしてきて色々な方とお仕事をやらせて頂きました。
お客様の担当者が新たに転職してきた方に変わり、「次の担当者は仕事が出来るから」と社長も期待していましたが、数ヶ月後には退職をしてしまうということもたくさんありました。

この様な事例を当事者として数多くみてきた中で何が原因だったかというと「社風に合わない」の一言に尽きると思います。

転職してきた方は、その新天地で能力を発揮しようと張り切って仕事をします。
この張り切り方を間違えると能力が発揮できないのです。

私はPTA会長を7年間していますが、前の校長先生の行動力は凄かったです。
しかし、着任して最初の一年はおとなしかった(笑)子供達や地域、保護者の雰囲気を観察していたのでしょう。
2年目からは積極的に動き、東京都でも「アクティブタイム」という分野では五本の指に入る学校になりました。

何が言いたいかというと「文化を変えるためには文化に合わせる」ことが必要なのです。

日本が何故明治維新から近代化に成功をしたのかというと、「日本を西洋化」したのではなく、「西洋文化を日本化」したからだといわれます。

M&Aのお手伝いをさせて頂いていますが、買収された企業の文化をどの様に変えていくのかを考えていく場合、この視点は重要です。

話がそれたので本題に戻しますが、転職してきた能力ある担当者が退職をしたのは「文化を変えるためには文化に合わせる」という努力をしてこなかったからです。

その組織にあった言葉で情報を発信しなければ周りの人を動かせません。日本人は阿吽の呼吸を大事にしますから「察する」能力を発揮しなければ上手くいかないのです。

日本人の文化を踏まえて行動しなければ上手く行かないことは著書でも述べました。
「海外進出している企業は現地の労働者を使うために現地の文化を理解する努力をしている。しかし、日本人を使うのに日本人の文化を大事にしていない」ここが問題だと述べました。

組織の文化を把握するためには「情報収集」が必要であり、その為には「非公式的なコミュニケーション」が大切なのだという結論です。

この非公式的なコミュニケーションは日本人の組織をまとめていく上で非常に大切なキーワードなのです。

3.忙しい人にアシスタントをつけても忙しさが変わらない理由

忙しい人にアシスタントをつけたけど忙しさが変わらない。
これはよくあることです。
忙しい人は「教える時間が無い」ことが原因であることは間違いありません。
しかし最近私はそれ以外にも原因があることを発見しました。
忙しい人ほど「ローカルルールを守っていない」ということです。
忙しいからという理由で、組織のローカルルールに例外を作っているのです。

さっきは「ローカルルールに合わせられないから退職している」と話していて矛盾しているじゃ無いかというお話が出そうですが、先ほどは「新しく入社した人」の話。

今は「気づいたら忙しくなっていた」人の話です。

「非定型的なローカルルール」はこの人達が作っているといってもいいでしょう。
「会社の把握しているローカルルール」と「忙しい社員がやっているローカルルール」は違いますので、アシスタントをつけたところでローカルルールが違います。

細かい部分についてはメチャクチャかもしれません。
だから手伝えないのです。

個人ごとに、勝手に進化しているローカルルールを整理して統一する必要があります。
これをやらなければアシスタントをつけても活用できないのです。

弊社でも同様のことがありましたが、電子申請の徹底を機に個人ごとのローカルルールを統一しました。
完全に統一は出来ていませんがアシスタントの活用に支障が出ない程度の差になってきました。
年単位で掛かる作業ですが業務の効率化と残業時間の削減のためには欠かせない作業です。

そういった意味で医師の行う手術というのはローカルルールも完成されており凄いシステムだと思います。

4.まとめ

非定型的なローカルルールと非公式的なコミュニケーションが日本の組織においては非常に大事な要素なのです。
是非実践して頂きたいと思います。

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