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人事のブレーン社会保険労務士レポート第175号
携帯電話当番と呼出待機の労働時間該当性

1.はじめに

メーカーの保守点検やかかりつけ薬剤師など帰宅後に取引先からの電話に対応するために携帯電話をもっているケースがあります。

また、呼出待機といわれる「自宅等で自由な時間を過ごしているが、呼び出されたら出勤しなければならない」といわれる働き方をしているケースもあります。

携帯電話で取引先と電話をした」「呼び出されて仕事をした」という時間はまさに労働時間でありますが、それ以外の「呼び出される可能性があるが、自宅等で休んでいる時間」についてはどの様な取扱をすべきなのでしょうか。

働き方改革の議論の中で、いままで曖昧にしていた勤務についてしっかりと見直す企業が増えています。

ご質問の多いこの項目について以下に詳しく述べたいと思います。

2.労働時間とは

(1)業務命令

まず、正確な理解をするために労働時間について掘り下げていきたいと思います。

「労働時間とは労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間であり、形式的ではなく実態を重視したものである」と考えます。
実態を重視するということは、「明示的な命令」だけではなく、「黙示的な命令」や「余儀なくされた場合」に労働時間として判断がなされます。

余儀なくされる場合とは、その行為を行わないことによる不利益や不都合等の諸般の状況からして、労働者が当該行為等を行わざるを得なくされているような状況を指すと考えられています。

(2)場所的拘束性

不活動仮眠時間が労働時間であるとされた大星ビル管理事件は「仮眠室における待機」に加えて「警報や電話等に対して直ちに相当の対応をすることを義務づけられている」点において労働時間と判断されました。

マンションの管理人に対する時間外手当の支給を認めた大林ファシリティーズ事件については午前7時より午後10時までは入居者からの宅急便等の受け取りなど入居者へのサービスが義務づけられていたことから、この時間を労働時間として判断され賃金の支払いを命じられました。

(3)まとめ

この様に業務命令の中に場所的拘束性がどの程度あるのかが労働時間性の一つの判断になります。

「連絡が来たらすぐに対応する」という事に加えて、「その為に宿直室や仮眠室から離れることが出来ない」といった場所的な拘束がポイントになってくるのです。

3.携帯電話当番

勤務終了後、取引先等の問い合わせや相談に対応する為に会社の携帯電話を自宅に持って帰り、自宅で自由な時間を過ごしながらも携帯電話を離さず持っているという勤務形態の方がいらっしゃいます。

この場合は、実際に取引先等から電話が掛かってきてそれに対応した時間については当然に労働時間となりますが、電話が掛かってこない時間についてはどの様に考えたらいいのでしょうか。

前述の様に、勤務終了後職場から離脱をしており、自宅やジム等で自由な時間を過ごすことができるということであれば場所的拘束性はありません。

休日であれば家族で行楽地に遊びに行くことも出来ます。
ですから電話が掛かってこない時間については労働時間ではないということになります。

4.呼出待機

呼出待機とは、「使用者からの呼出に応じる必要はあるが、滞在場所は労働者が自ら選択できるもの」であり、場所的拘束性はありません。

大星ビル管理事件調査官解説では「滞在場所を自由に選択できる呼出待機の労働時間該当性に疑問が生ずるのは、滞在場所を自由に選択できること自体にあるよりは、滞在場所が自由であるということは、呼び出されてから労務提供場所へ赴いて労務を提供するまでの時間的な余裕があるため、呼び出されるまでの時間を労務提供が義務づけられる時間と切り離して評価することが出来るという説明が可能であるように思われる。」としています。

大星ビル管理事件や大林ファシリティーズ事件は場所的拘束性があり労働時間とされましたが、呼出待機では「労務提供まで時間的余裕がある」という点が労働時間ではないという一つのポイントになってくるでしょう。

しかし場所的拘束性がなくても常に呼出があるような場合には注意が必要です。

判例では「1日1回程度の呼出があり、呼出が発生する日の方が常態であるが、出動態勢が整い次第、速やかに出動することを命じるにとどまるとみられることを勘案すると、本件不活動時間帯において原告ら従業員が受ける場所的、時間的拘束の程度は、職務ないし業務の性質上、就業場所近くに住居しつつ、労務を提供すべき事態が発生した際にその旨の連絡に応じて労務提供を行い、それまでは住居地ほかで待機するという、いわゆる呼出待機の場合にみられる様な抽象的な場所的、時間的拘束に類するものといえ、従って本件不活動時間を手待時間と同種のものと評することは困難というべきである」(大道工業事件東京地裁平20.3.27 労判964号25号)の様に毎日呼出があったとしても呼出待機として労働時間ではないと判断しました。

学説では「いかに労働界法を保障しても、その時間がわずか数分というような場合、その労働時間の短さゆえに労働時間性を肯定すべき場合がないとは言えない」という見解もあります。

頻度についての裁判所の判断は上記大道工業事件ですが、どの程度の頻度まで許容されるのかについては議論の余地はあります。

場所的拘束性がないことがポイントですから、呼出された勤務場所から、次の勤務場所に赴く様なことが常態であれば調査官解説であった「呼び出されてから労務提供場所へ赴いて労務を提供するまでの時間的な余裕があるため」という呼出待機の特徴がなくなってしまう可能性もあります。

この点を踏まえて頻度と場所的拘束性を判断しなければならないでしょう。

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