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人事のブレーン社会保険労務士レポート第164号
建設業における法定福利費算出の方法について

1.はじめに

平成29年度から建設業許可を受けるためには社会保険の加入が必須となりました。
色々な企業でこの対策をさせて頂きましたが、社会保険料の価格転嫁をどの様にしていくのかが課題であります。「元請けから社会保険の内訳を記載するようにいわれたんだけど、どうしたら いいの?」というご相談を受けます。
今回はこの方法をテーマにしました。以下で掘り下げていきたいと思います。

2.なぜ社会保険加入が許可要件になったのか

建設業以外で同様のことが行われているのが運送業です。社会保険に加入をしているのかを年金事務所より詳しく陸運局が調べます。その結果、加入漏れがある場合には最悪行政処分が下されます。

ではなぜこの様な事が行われるようになったのでしょうか。

社会保険に加入すると賃金額の約15%が会社負担として法定福利費に加算されます。即ち総人件費が社会保険の加入により15%増えるということです。これは大きな金額です。
社会保険の加入の有無で、人件費がこれだけ違うのですから当然見積に影響してきます。
社会保険に加入をしているA社と加入をしていないB社。
見積もりを出す際には当然加入をしていないB社の方が安い金額で見積額が出せます。

「ルールを守って社会保険に入っている企業の人件費が高く、見積額が高くなり仕事が受注できない」。
これでは正直者が馬鹿をみてしまう。真面目に社会保険に加入をしている企業 がこの様な事にならないようにと「社会保険の加入」が義務づけられたのです。
今まで社会保険に加入していた企業は「こんなの当たり前だ」と仰いますし、社会保険に加入をしていない企業は「中小企業をつぶす気か」と怒ってらっし ゃる社長もいらっしゃいます。
どちらの立場でもお手伝いをさせて頂いているので、どちらの気持ちもわかります。
しかし業界全体で加入することがルールとなったわけであり、その費用をどの様に価格転嫁していくのかが今後の対策になります。
オリンピックが開催されるといっても厳しい建設業界。どの様に社会保険料を算出すればいいのでしょうか。

3.人件費の算出方法

(1)人件費算出の際の注意点

まず人件費を算出して、その後に保険料率を掛けて保険料率を算出するという方法をとります。
ここで注意すべきは下請け企業の社会保険料の算定です。
自社の社会保険料は社員の賃金から控除される保険料の合計で計算できます。
しかし下請け企業も社会保険料を払っており、そこで働く社員の保険料まで把握できません。

次に工期の問題。
賃金計算期間に合わせて社員が現場を動くのであれば、その工事に係った人件費の額が算出可能です。
しかし複数の現場を掛け持ちしていたりと短期で職人さんの出入りが激しい現場ではその工事に係った人件費の額を算出することは難しいでしょう。

(2)算出方法

この様な点から人件費の算出方法については以下のような方法をおすすめします。自社については見積の際に計算した人件費を基準として、その工事に係る人件費とします。
下請け企業については以下の通り計算します。
外注費×その工事にかかる自社の人件費比率で人件費を求めます。
「その工事に係る自社の人件費比率」とは自社が工事を行う際に積算する「人件費の割合」です。
これを外注費に掛けて人件費とするのです。
正確な人件費を算出することは困難ですからこの方法により算出するしかないのです。

(3)一人親方の取扱

法人ではない一人親方は社会保険に加入できませんので、個人事業主である一人親方に支払った外注費はここでいう人件費には含めません。

4.社会保険料の算出方法

(1)算出する社会保険

この計算で考慮しなければならない社会保険の種類は「健康保険」「介護保険料」「厚生年金保険」「雇用保険」です。「労災保険」は元請けが掛けますから、下請けが当該工事によって発生する労災保険料はありません。

ですから上記4種類になります。

しかし健康保険だけは注意が必要です。 建設業では東京土建に代表されるような「国民健康保険組合」に加入している企業が多いです。
国民健康保険組合とは、市役所で手続きする国民健康保険を職域で運営している団体です。
ですから国民健康保険と同様、会社負担はありません。
国民健康保険組合に加入している企業については「厚生年金」と「雇用保険」のみが社会保険料の計算対象になります。ここだけご注意ください。

(2)計算方法

5.77(健康保険料及び介護保険料)+9.091(厚生年金保険料) +雇用保険料0.8=15.661%を乗じた金額が法定福利費となります。
40歳未満は介護保険料がかかりませんので、その場合には「5.77」が「4.98」になりますので14.871%になります。

40歳未満の社員と40歳以上の社員で計算を分けるという方法もありますが、そもそも前述したように社員や職人さんの出入りが激しい場合に正確に算出することは困難です。
ですから介護保険料を含めた保険料率で算出することがいいと思います。
健康保険料及び介護保険料は都道府県や年度により乗率が違います。
この計算式は「東京都」「協会けんぽ」「平成29年4月1日現在」の場合です。
厚生年金保険も毎年10月に変更になりますので、最新の保険料を確認するようにしてください。
都道府県が違う場合、協会けんぽではなく、健康保険組合などの場合は料率が違います。

5.まとめ

今回は建設業の見積における社会保険料の算出方法をまとめました。
価格転嫁を認めてくれる企業もあれば、そもそも社会保険料を支払っている前提で仕事を出していたという見解で認めてくれない企業もあります。
上記の方法で算出して見積に活かして頂きたいと思います。

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