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人事のブレーン社会保険労務士レポート第163号
労働安全衛生規則改正による産業医に関する規定について

1.はじめに

過重労働に注目が集まり、働き方改革による残業の上限規制も議論されています。
そのような中で労働安全衛生法による産業医が、過重労働や高ストレス状態の労働者の健康を確保するために、実効性のある制度にしていこうという目的で改正が行われました。

細かい改正点ですが、形骸化している産業医制度を実効性のあるものにしていこうとしており、事業者と産業医のコミュニケーションを充実させていく内容となっています。
実務的には重要になってきますので以下で詳しくお話しします。平成29年6月より施行されます。

2.産業医の職場巡視

現行法では産業医は「月に一回職場巡視をしなさい」とされています。
そして「作業方法または衛生状態に有害のおそれがあるときは、直ちに労働者の健康障害を防止するための必要な措置を講じなければならない」とされています。

しかしこの月一回の職場巡視が行われておらず、産業医制度の形骸化につながっていました。職場巡視以外でも情報収集が出来ているという前提で、この職場巡視の頻度を減らす改正が行われました。

これで形骸化されている制度が実効性を担保できるのかは疑問ですが、一定の条件を満たせば職場巡視を「月に一回」から「二ヶ月に一回」に軽減できるということです。

この軽減できる前提条件とは以下の通りです。
「衛生管理者が少なくとも毎週一回行う作業場等の巡視の結果」と「衛生委員会等の調査審議を経て事業者が産業医に提供する事としたもの」として「長時間労働者に対する面接指導の基準に該当する労働者及びその労働時間数」が毎月1回産業医に情報提供されており、事業者が2カ月に一回の産業医の職場巡視に関して同意した場合には軽減できるとなりました。

うちは産業医にお金を払っているんだから、しっかり月に一回は巡視してもらうとすれば情報提供をしていても軽減できません。要は産業医の意思だけでは軽減できず、事業者の同意が必要であるということです。

3.健康診断結果個人票に産業医の意見をもらう際の情報提供

健康診断の結果、異常の所見があると診断された労働者について、当該労働者の健康保持に必要な措置について、医師等からの意見を聴取するとされています。

この際に、事業者の状況や労働者の作業環境、作業方法などを産業医が十分に理解していなければ適切な指導が行えません。

職場巡視等でこの様な方法を産業医が理解しているという前提でしたが、今回の改正でこれらの情報を産業医が求めた場合には、その産業医に情報提供する事となりました。

「事業者は、各種健康診断の有所見者について医師等が就業上の措置等に関する意見具申を行ううえで必要となる労働者の業務に関する情報を当該医師等から求められたときは、速やかにこれを提供しなければならない」となったのです。

これも職場巡視が形骸化しているという前提で、実効性を担保しようという措置であろうと思います。

4.長時間労働者に関する情報の産業医への提供

残業時間が100時間を超え、疲労の蓄積が認められる労働者が申し出た場 合は医師の面接指導を受けさせなければならず、その面接指導により労働者の 就業等に関して医師から意見を聞かなければなりません。

医師の意見を勘案して、事業者が必要と認めるときは、当該労働者の実情を考 慮して就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等 の措置を講じなければならないとされています。

この面接指導については労働者の申し出が要件になっており、実際にはあま り行われておりません。

そこで残業時間が100時間を超えた労働者について産業医にその労働者の情報を提供させることにより、産業医がその職務を通じて意見を述べられる機会が出来ることとなります。
これにより面接指導の実効性を確保しようという主旨であると思います。

5.まとめ

働き方改革により色々と企業が求められる様になるでしょう。
その中で労働者の健康管理に関する事項は36協定で特別条項を設けている企業にとっては負担が増えるものと予想されます。

形骸化している産業医制度を改善し、実効性のあるものとなるように、今回の改正が行われたと考えます。

産業医の形骸化は企業側の問題というより、医師のモチベーションが低いということが原因であります。

今回の改正点でこの問題が解決するとは思えませんが、少なくとも企業実務においては「産業医に提供する情報」が適切に提供されているのかが問われてきます。
改正点をしっかりと実務に活かして欲しいと思います。

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