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人事のブレーン社会保険労務士レポート第158号
「企業努力で解決しろ」の限界

1.はじめに

政府の進める「働き方改革」について、その実効性や実現性について疑問の声が上がり、結果的に中小企業いじめにつながるのではないかというご意見をいただいています。

私も同意見ですが、なぜこの様なことになったのかを今回は考えてみまいと思います。

2.プレミアムフライデーを事例に考える

月末の金曜日は15時に仕事を終え、余暇を活用することにより個人消費を上げましょう。

こんな施策を政府は考えました。この発想が問題なのは一点だけです。

「レジャー産業、流通、小売り、外食、理美容など余暇活動に必要な業界は15時に帰ることが出来ない」
「みんなで15時に帰ろうぜ!」というのであれば、15時以降は元旦のように社会の機能を一部停止させなければなりません。
金融機関も休み、初売りは2日からなどなど。

この発想がないので、非常に違和感のある施策ですし、レジャー産業や流通、小売り、外食、理美容など第三次産業の労働環境は改善しないのです。
15時に帰りましょう!の仲間にサービス業は入っていない事が問題なのです。

3.年次有給休暇取得率の向上

これは何度も取り上げましたが、祝祭日が年間15日あり、週40時間労働制の我が国では、年間休日数が120日前後あります。
一年間の3分の1が休日です。

我が国の休暇政策は「年次有給休暇をマイペースに取りましょう」ではなく、「みんなでいっぺんに休みましょう!」という政策なのです。ゴールデンウィークや年末年始、お盆休みなどに大渋滞が発生するのもこれが原因です。
年間休日数では、国際比較をした場合日本は決して少なくはありません。年間休日数で考えなければ本質的な問題は解決しません。

年次有給休暇取得率だけを上げるためには祝祭日を出勤日とすればいいわけです。
年間休日数が少ない小売り、外食、理美容、物流など、業種を絞った改善策を考えることがベストなのです。

4.社会保険の適用拡大

健康保険と厚生年金については平成28年10月1日より501人以上の企業は週20時間以上の労働者に対して加入させなくてならなくなりました。
これは本当に頭が痛く、現状で利益率の少ない小売業などは20時間未満に労働契約を切り替えて対策を進めています。

人件費の15%になる社会保険料の企業負担分を出せないからです。企業負担分を出せないというのは、その金額を商品に価格転嫁出来ないということです。
人手不足の流通業が更に人員不足になり、正社員の長時間労働につながっていくのです。
職務経験が少ない労働者のフルタイム社員での就労の機会を奪ってしまう結果となるのです。

国民年金の第三号被保険者から保険料を徴収しなければ不公平感はますます増大していくでしょう。

5.まとめ

「中小企業を元気にしよう」という政策を進める反面「中小企業の収益を圧迫させる政策」を同時に行っています。

最低賃金の上昇や育児休業に関する政策も然りです。

第一に中小企業は「少数精鋭での運営であること」故に「産業代替の発想は出来ないこと」や「解雇のハードルが高いので、人員増加には大きな決断が必要で恒常的な時間外労働につながっていること」につながっている点。

第二に中小企業には価格決定権がないので、価格転嫁が出来ず「社会保険料の適用拡大」「最低賃金の上昇」に対応できないこと。

第三に拘束時間の長い小売り、外食、理美容、運送業では最低賃金額の上昇が既に限界にきているということ。この問題は価格転嫁を強引にするために小売価格を政府が誘導するぐらいの政策を打ち出さなければ賃上げは困難になってきます。

すべての原因は「企業努力で解決しろ」という姿勢です。
この点は中小企業にとって非常に困難な問題であります。
自助努力は大事ですが、限界はあります。

この様な事から私は「中小企業の経営者は社会的弱者である」と考えるに至ったのです。

日本の中小企業を守るために知恵を出して頑張っていきたいと思います。

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