メルマガ人事のブレーン社会保険労務士レポート

人事のブレーン社会保険労務士レポート第157号
平成28年東京都最低賃金について

1.最低賃金額上昇による影響

(1)最低賃金額
最低賃金額が907円から25円引き上げられて932円になります。
平成28年10月1日からの適用になります。

平成26年の最低賃金額は888円でしたから2年で44円も引き上げられた結果となります。

政府は最低賃金を引き上げることにより賃金総額が増え、かつ非正規社員の待遇改善になるという判断で最低賃金を引き上げています。

しかし最低賃金額の引き上げの効果は政府が意図するところと逆の効果をもたらします。
逆の効果とは次でお話しする2点が考えられます。

(2)賃金総額が変わらない中での最低賃金額の上昇

a 価格転嫁できない構造
第1は「賃金総額が増える」前提で最低賃金額を引き上げていますが、実際には賃金総額は変わりません。
賃金総額を引き上げるためには、同じ仕事量で利益が増えなければなりません。
仕事量が変わらず、利益額も変わらなければ昇給原資は出てきません。
最低賃金額の上昇を上回る利益額を確保しなければ賃金総額を引き上げることは出来ません。
最低賃金額の上昇分を商品価格に転嫁でき、なおかつ消費が減らないことが前提条件です。
中小企業ではこの価格転嫁が出来ない為に「賃金総額を変えられない」状況になります。
賃金総額が変わらない中で最低賃金額を引き上げることは、賞与や正規社員の昇給原資からその予算を出さなければなりません。
最低賃金額の引き上げにより正社員の昇給額や賞与に影響が出ます。
また非正規社員に少額でも賞与を支給していた企業も、この大幅な最低賃金額の上昇によりその原資を最低賃金額の上昇コストに充てるところも多くなっています。

b 最低賃金で働く労働者とは
中小企業でも利益額の多い企業は最低賃金額について関心は低いのですが、我々の生活と密接な関係にある「小売り」「外食」「理美容」「運送」などといった拘束時間の長い業種は最低賃金額の影響が多きいです。

残業時間が多いこと、利益額が少なく昇給原資が少ないことが原因であり、深夜営業や宅急便の時間指定サービスなど消費者の利便性向上とそれを提供する企業の長時間労働は密接に関わっています。
今後は最低賃金額の上昇や残業規制により、「夜7時閉店の小売業」「深夜営業できない飲食業」「配達日数が長くなる運送業」というように消費者の利便性が悪くなってくると思います。
今後最低賃金額や残業規制などのニュースが出たときには是非このことを考えながらご覧頂ければ本質が見えてくると思います。
規制が強くなれば消費者がそのコストを負担しなければならないのです。

(3)選別される労働者
製造業に従事する労働者はどうでしょう。
新興国と同じ様な製品を造っている企業は、新興国と同じ単価を求められます。
付加価値の高いものを提供できればいいのですが、そこまでの付加価値を提供できない企業も多いです。

最低賃金額の上昇は製造コストの上昇を意味します。社会保険の適用拡大と併せて、作業を標準化し、短時間のパートを雇用して付加価値の低い業務を行わせることに取り組んでいる企業が増えています。

この意味するところは、正社員になかなかなれない労働者が増えるということです。
正社員は付加価値の高い仕事をしてほしい。より即戦力を求めるようになります。
社会経験が少ない労働者や育児などでしばらく働いていなかった労働者などが正社員になるためには、標準化された短時間のパートタイマーを経て、少ない定員の正社員を目指す事になるのです。
労働者の二極化が進み、稼げる労働者とそうではない労働者に分かれていってしまいます。

この点が非常に大きな問題になるのです。
特に製造業は新興国の労働者が競争相手なのです。付加価値の高いものを提供できる企業への転換は簡単ではありません。出来ない企業が倒産することが我が国にとってハッピーなのか。是非皆様に考えて頂きたいと思います。

2. 月給での最低賃金額の計算

最低賃金額の上昇による影響について検討してきましたが、実際には月額でどの程度上がるのでしょうか。
月額の最低賃金額を求めるには年平均の月間所定労働時間が必要になります。
具体的には年間の所定労働時間の合計を12で割ったものです。

週40時間労働で、祝祭日や年末年始休暇等関係ない小売りや外食などは年間の所定労働時間の合計が2085時間近くになりますので、この数字を12で割ると173.75になります。

この173.5に932円を乗じた金額である161,702円が最低賃金額になります。

週休2日で祝祭日も休める業種については年間休日が120日ぐらいありますから労働日は240日になります。240日に8時間を乗じると1,920時間になります。

これを12で割ると160になりますので、932円×160=149,120円 となります。

この様に月給者の最低賃金額の算出は、年間の所定内労働時間の合計を12で割った年平均の月間所定労働時間を求めなければなりません。
年間労働日が160日以下の会社はあまりありませんから概ね149,120円から161,702円の間が最低賃金額となると考えられます。
今回は907円から25円引き上げられましたので月額で4,000円から4,344円の引き上げとなります。

定期昇給が出来ない企業がある中、この金額の上昇は大変に厳しいものであります。
いずれにしても本年10月1日より発効ですからしっかりと準備をしなければなりません。


人事のブレーン社会保険労務士レポート一覧へ