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人事のブレーン社会保険労務士レポート第149号
平成28年改正労働基準法 その2

1.はじめに

前回もお話しを致しましたが、改正労働基準法案が現在190回通常国会において執筆日現在(平成28年2月12日)衆議院厚生労働委員会に付託されております。
未だ衆議院厚生労働委員会は開かれておらず法案成立の見通しは不透明ですが、改正案の内容が実務に与える影響が大きいために取り上げています。
審議の過程で修正がある可能性もありますが、前回に引き続き法案の内容について掘り下げたいと思います。

今回はいわゆる「企画型裁量労働制の適用範囲の拡大」と「高度プロフェッシ ョナル制度の創設」についてお話ししたいと思います。


2.企画型裁量労働時間制の適用範囲の拡大(第38条の4)

 (1)現行法
現行の企画型裁量労働時間制は労使委員会が設置されている事業場を前提として、「事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査及び分析の業務であって、当該業務の性質上これを適切に遂行するにはその遂行方法を大幅に労働者に委ねる必要」がある為に「当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をしないこととする業務」となっています。  
この前段の表記がより具体的な表現に改正されました。

 (2)改正法
具体的には1号にイロハを追加し、イとして「事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査及び分析の業務(ロに掲げる業務を除く)」。ロとして「事業の運営に関する事項について繰り返し、企画、立案、調査及び分析を行い、かつ、これらの成果を活用し、当該事項の実施を管理するとともにその実施状況の評価を行う業務」。ハとして「法人である顧客の事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査及び分析を行い、かつ、これらの成果を活用した商品の販売又は役務の提供に係る当該顧客との契約の締結の勧誘又は締結を行う業務」となりました。
イは現行法の業務と同様のものと考えられます。
ロは「品質管理」「サービス技術向上」など裁量的にPDCAサイクルを回す業務と考えられています。
例えば、品質管理の計画を企画立案し、その計画を実行するための運用や監査などを行い、その過程で示された意見等をみて更なる取り組みを計画していく業務などと考えられます。
ハは、いわゆる提案型営業であり、顧客の問題解決の調査、企画、立案とともに商品やサービスの提案を行うものと考えられます。

 (3)改正法における健康管理等
現行法は対象となる労働者の労働時間に応じた健康及び福祉に関する措置を講ずることとされていましたが改正法では、労働基準法第39条による年次有給休暇以外の有給休暇の付与や健康診断の実施などの措置を講じなければならないとよち具体的な事項を求められています。省令においては「長時間労働を行った場合の面接指導、深夜業の回数制限、勤務間のインターバル、一定期間における労働時間の上限設定」などが求められるようです。
対象業務の拡大と併せて、健康管理についてはより厳格な措置が求められる事となったわけです。

3.高度プロフェッショナル制度(第41条の2)

 (1)対象業務
「高度の専門知識等を必要とし、その性質上従事した時間と従事して得た成果との関連性が通常高くないと認められるものとして厚生労働省令で定める業務のうち、労働者に就かせることとする業務」と規定しており、労働時間とその成果の関連性が少ない業務であり、具体的には「金融商品の開発業務、金融商品のディーリング業務、アナリスト業務(企業・市場等の高度な分析業務)、コンサルタントの業務(事業・業務の企画運営に関する高度な考案又は助言の業務)、研究開発の業務等」が念頭に置かれています。

 (2)対象労働者
対象労働者は、次のいずれにも該当する労働者とされており「使用者との間の書面その他の厚生労働省令で定める方法による合意に基づき職務が明確に定められていること」という職務の明確性と、「労働契約により使用者から支払われると見込まれる賃金の額を1年間当たりの賃金額に換算した額が基準年間平均給与額の三倍を相当程度上回る水準として厚生労働省令で定める額以上」という年収要件を満たす必要があります。
職務の明確性につては、具体的な職務内容を所定の方法により明確に取り決めればいいものです。
年収要件については「1075万円」とされています。

 (3)健康管理措置
高度プロフェッショナル制度は、労働時間の配分を労働者の裁量に大きく委 ねるわけで、健康管理措置については厳格な措置を求められています。

1)健康管理時間の把握
 「事業場内に所在していた時間」と「事業場外で業務に従事していた場合における労働時間」との合計を健康管理時間と定義しました。
事業場内に所在する時間とは、労働時間ではなく、事業場内にいた時間であり、タイムカードやパソコンの起動時間などで管理をすることが求められています。
事業場外の時間については自己申告で行うことが想定されています。
労働時間ではなく、拘束時間を把握することで対象労働者の健康管理を行っていくことが企業に求められているということです。

2)健康管理時間に基づく健康・福祉確保措置
 労使委員会での決議や就業規則により次の3つのうちいずれかの措置を講ずることになっています。
第一は、労働者に24時間について継続した一定時間以上の休息時間を与えるものとし、1ヶ月について深夜業は一定の回数以内とすること。
運送業では終業時刻から翌日の勤務の始業時刻まで8時間の休息時間を設けるように義務づけられています。
この様な勤務間インターバルを設けるように求められているのです。
第二は、健康管理時間が1ヶ月又は3ヶ月について一定時間を超えないこと。
第三は、4週間を通じ4日以上かつ1年間を通じて104日以上の休日を確保すること。
この3つのうち、いずれかの措置を講ずれば良いということになります。

3)その他
 企画型裁量労働時間制でお話しした「労働基準法第39条による年次有給休暇以外の有給休暇の付与や健康診断の実施などの措置」と同様の措置が求められています。
また「苦情処理も窓口の設置」「高度プロフェッショナル制度の対象となることに同意をしなかった労働者に対する不利益取扱の禁止」などが規定されています。

 (4)適用除外の内容
高度プロフェッショナル制度の適用除外については、管理監督者等と違い「深夜時間」まで適用除外になっています。
「労働時間、休憩、休日及び深夜の割増賃金に関する規定」が適用しないとされています。
この点からみても、労働者の裁量が大きい反面、健康管理時間という概念をつくり、健康管理措置を強く求められているのです。

4. まとめ

現在の第190回通常国会において衆議院厚生労働委員会に付託をされています。
今後の審議を見守っていかなければなりませんが、法案自体が大きく修正をされるということはなさそうです。
法案審議を見守りながら準備を進めていくことをお勧め致します。

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