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人事のブレーン社会保険労務士レポート第135号
有期労働契約の無期転換に関する特例について

1. はじめに

(1)労働とは
平成25年4月1日以降に新たに有期労働契約を締結するか、新たに更新をした場合について、当該日から5年を経過した場合には、労働者の申し入れにより期間の定めのない労働契約に転換されるというルールがあります。

法律によって有期労働契約労働者を期間の定めに促して、労働者の雇用の安定を図ろうという意図で労働契約法が改正されました。
そもそも東芝柳町工場事件や日立メディコ事件の判例により、有期労働契約の労働者の「雇止め」について解雇権濫用法理が準用されるということが確立されており、客観的合理的理由の無い雇止めについては無効であるということになっています。

有期労働契約を無期転換にすることでどれだけ意味があるのか疑問でしたし、有期労働契約を無期転換にする期間が5年であれば、そもそも5年を労働契約の更新の上限とした有期労働契約を結べばいいこととなり、かえって労働者の立場を不安定にするということは法案の段階からこのメルマガなどでお話をしてきました。
法が施行され、早稲田大学の非常勤講師が契約更新回数の上限の無い有期労働契約から、5年を上限とした有期労働契約に労働契約内容が変更されたことなどを機にこの法律の問題点が明らかになり、その問題点の解決のために今回の特別措置ができました。

特別措置は「高度専門知識をもつ有期労働契約労働者」「定年後再雇用をされている労働者」「研究者・教員」です。

2.高度な専門的知識を持つ有期労働契約労働者

高度な専門的知識を持つ有期労働契約労働者とは、5年を超える一定の期間内に完了することが予定されていて、専門的知識等を必要とする業務に従事する、一定の収入以上の、高度な専門知識を有する有期労働契約労働者です。

この場合には、その業務に就く期間は無期転換されません。ただし、その期間は10年を超える場合には10年を上限とするとされています。

この労働者を法律では第一種特定有期労働者といいます。

3.定年後再雇用された労働者

定年後に同一の事業主または一定の要件を満たしたグループ会社等(特殊関係事業主)に引き続き雇用される有期労働契約労働者については、その再雇用の期間については無期転換申込権が発生しないという取り扱いになりました。

ただし、定年前から有期労働契約を締結している場合には、この特例には該当せずに、原則通りの取扱となります。

この労働者を第二種特定有期労働者といいます。

4.特例適用の手続き

(1)概要
この特例を受けるためには事業主は対象労働者の雇用管理に関する計画を立てて、厚生労働大臣に申請をし、認定を受けなければなりません。
この計画内容については第一種と第二種で違います。

(2)第一種計画
これは第一種特定有期労働者である高度な専門知識を有する有期労働労働者に対して特例を申請する場合です。
計画で定める内容は以下のとおりです。
・対象労働者が就く特定有期業務の内容
・特定有期業務の開始及び完了の日
・対象労働者が能力の維持向上を自発的に図る機会の付与等雇用管理に関する措置の内容
・その他厚生労働省令で定める内容
労働基準法第39条による年次有給休暇の他に、対象労働者が研修等の機会を受けられるような有給休暇の付与などが求められます。

(3)第二種計画
これは第二種特定有期労働者である定年後再雇用される有期労働契約の労働者に対して特例を申請する場合です。
・対象労働者の配置
・対象労働者の職務及び職場環境に関する配慮
・対象労働者の特性に応じた雇用管理に関する措置の内容
・その他厚生労働省令で定める内容
健康状態などに配慮して一定の措置が求められます。

(4)まとめ
結論から言うとこのような申請をする企業がどれだけいるのかと疑問に思います。
特例措置によらなくても十分に対策はたてられますので、特例措置の申請をご検討の方は是非ともご相談いただきたいと思います。

5.研究者、教員の特例

教員についても特例が設けられました。
5年を10年とする特例が設けられました。
教員の特例の対象者については以下のとおりです。
(1)人文科学のみに係るものも含めた科学技術に関する研究者又は技術者であり、その補助を行うものも含めて大学等を設置する者又は研究開発法人との間で有期労働契約を締結したもの

(2)研究開発又は研究開発の成果の普及若しくは実用化に係る企画立案、資金の確保並びに知的財産権の取得及び活用その他研究開発等に係る運営及び管理に係る専門的な知識及び能力を必要とする業務に従事する者であって大学等を設置する者又は研究開発法人との間で有期労働契約を締結したもの。

(3)大学等、研究開発法人及び試験研究機関以外のものが大学等、研究開発法人又は試験研究機関等との協定その他契約によりこれらと共同して行う共同研究開発等(以下「共同研究開発等」という)の業務に専ら従事する科学技術に関する研究者などであって当該大学等、研究開発法人又は試験研究機関以外のものとの間で有期労働契約を締結したもの

(4)共同研究開発等に係る運営管理に係る業務に専ら従事する者であって当該共同研究開発等を行う大学等、研究開発法人又は試験研究機関以外の者との間で有期労働契約を締結したもの。

(5)大学の教員等の任期に関する法律(任期法)に基づく任期の定めがある労働契約を締結した教員等。教員等とは、国立大学法人、公立大学法人及び学校法人の設置する大学(短期大学を含む)の教員(教授、准教授、助教、講師及び助手)、大学共同利用機関法人、独立行政法人大学評価・学位授与機構、独立行政法人国立大学財務・経営センター及び独立行政法人大学入試センターの職員のうち専ら研究又は教育に従事する者であり、常勤、非常勤を問いません。

6.まとめ

そもそも有期労働契約を一定期間経過後に期間の定めのない労働契約に転換させるということが、労働者保護につながらないということが明らかになり特別措置によりその修正が行われました。

しかし期間が5年から10年になったり、高度専門知識を有するものが5年を超えるプロジェクトに参画する場合など、問題の先送りや該当者が本当にいるのであろうかと疑わしい措置がとられました。

有期労働契約の無期転換を廃止すれば問題は解決するものと思います。

冒頭でお話したように、判例により「雇止めの法理」が確立している状況において、わざわざ無期転換をさせるルールを作り、使用者に「無期転換」させない対策をわざわざ立てさせることにより労働者が不安定になっているのです。

この「わざわざ」をやめればいいだけであり、実務や実態を知らない人たちが作った法律の最たるものであると考えます。

皆様のご参考になれば幸いです。

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