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人事のブレーン社会保険労務士レポート第132号
平成26年最低賃金額の改定について

1. はじめに

平成26年の東京都の地域別最低賃金が869円から19円引き上げられて888円になりました。
経済状況が厳しい中これほど引き上げられることは中小企業にとって大変にきついことです。
生活保護をベンチマークに最低賃金を決定しますから、最低賃金の上昇は生活保護費の上昇によります。
生活保護費の水準が妥当かどうかの議論をせずに最低賃金額を決定していることが非常に問題なのです。
また我が国の賃金制度は、残業を前提に設計されている企業がほとんどです。
残業をしないで生活をしている労働者はほとんどいません。この残業代も労働者は生活費として組み入れているわけであり、生活保護費と所定内賃金を比較することも実態とかけ離れているのです。
心ある労働基準監督官も、この最低賃金の上昇については、中小企業は限界に近づいていることは認識しており、政府の対応が望まれます。「最低賃金で働いている労働者なんていないでしょ?」というご質問を受けますが、結構身近にいるのです。
今回はここを掘り下げて、最低賃金の問題点を明らかにして、平成26年度の金額の検討をしていきたいと思います。

2.最低賃金で働いている職種とは

(1)拘束時間と最低賃金

残業手当はを支給するためには残業手当の予算化をしなければなりません。
その結果、基本給などが低くなり労働者の生活の安定が脅かされることを防ぐために定額残業制度の導入を図っていくべきであるという考えは拙著「社長!残業手当の悩みはこれで解決」やこのメルマガでもお話している通りです。
拘束時間の長い業種については、その拘束時間の途中にある休憩時間を正確 に記録することは困難です。
結果として「拘束時間=労働時間」となってしまい、長時間労働として捉えられてしまうのです。
例えばスーパーマーケット。ここでは鮮魚や精肉、総菜などの部門があります。
開店前から仕込みを始めて閉店まで魚をさばいているわけではありません。
朝さばいた魚の売れ具合をみながら、次の仕込みのタイミングを図っています。
この時間には喫煙など労働者の自由に使える時間があり、休憩として取り扱っても法的に問題がない時間がたくさんあります。
しかし、一回の休憩が短く、回数が多いなど把握が困難です。 休憩時間の把握が困難な結果、休憩を取った証拠がないということで、拘束時間が労働時間とされてしまうのです。
この様な労働時間管理体制を取らざる得ない業種は、小売業、外食業、運送業、建設業などが代表的なものです。  
休憩時間を含めて労働時間として考えるために
「休憩時間+実際の労働時間=労働時間=拘束時間」
となってしまい、残業時間が見かけ上多くなってしまうのです。  
色々な管理を試みますが、細かい休憩を記録するための労力は大きく、なかなか実践できません。  
企業として未払い賃金のリスクを無くすためには「休憩の把握」につとめるよりも、管理ができないという前提で、休憩時間を含めた拘束時間に対して定額残業手当を設定することが現実的な問題の解決につながるわけです。
この様な対策の結果、拘束時間が長い業種は定額残業部分が多くなり、結果として基本給が低くなってしまいます。このことにより最低賃金ギリギリの基本給設定になってしまうのです。

(2)価格転嫁と最低賃金

しかしここで最低賃金の上昇した金額を、賃金額に上乗せできるのであれば基本給を最低賃金ギリギリに設定しなくてもいい可能性があります。
実際に最低賃金の上昇したコストを価格転嫁することが困難です。
原油が高騰し、原材料価格が高くなっています。そして消費税率の引き上げ。
そのコストでさえ価格転嫁できていないわけですから、とても最低賃金の上昇分を価格転嫁することはできないのです。
最低賃金を引き上げるということは、消費者にとって購買価格が上がるということ。購買価格が上昇しないのは中小企業が歯を食いしばって頑張っているということを認識してもらいたいと思います。

(3)まとめ

「拘束時間における休憩時間を把握することの困難さ」と「最低賃金上昇した コストの価格転嫁の困難さ」により小売業、外食業、運送業、建設業などでは 最低賃金額で働く様にみえる労働者がたくさんいます。 しかし拘束時間が長く、途中の休憩時間の把握が困難な結果その様になってい るわけです。 この点をしっかりとご理解をいただき、最低賃金の問題を考えていただきたい と思います。

3.月給制における最低賃金額

月給制における最低賃金額とは時間給で決められている最低賃金額に年平均の月間所定労働時間を乗じたものです。  
週休2日だけで、祝祭日や年末年始など休みがない業種については概ね2,085時間が年間の総所定労働時間です。
2,085時間を12か月で割ると「173.75時間」となります。
これが想定される年平均の月間所定労働時間の上限です。
これに最低賃金額である888円を乗じると154,290円になります。
これが月給制の最低賃金額になります。
週休2日で祝祭日が休みの会社の場合には160時間から170時間の間に収まります。
ご自身の会社の年間出勤日数をご確認していただいて計算をしていただきたいのですが、上記の例で行くと142,080円から150,960円の範囲内が一般的かと思われます。

4. 最低賃金の計算に含まれない賃金

最低賃金の計算に当たって含まれない賃金とは以下のものです。
「時間外手当、休日出勤手当、深夜手当など時間外労働等に対する賃金。定額残業手当などもここに入りますので最低賃金額の計算には入れません。」
「賞与など1か月を超える期間ごとに支払われる賃金」
「結婚手当など臨時に支払われる賃金」
「通勤手当、皆勤手当及び家族手当」
以上ですが、運送業でみられる無事故手当や愛車手当についても、その条件がクリアされなければ支払われないわけですから、事故が起きた際には無事故手当が支給されないと最低賃金額を割ってしまうという事態になってしまいます。
よって、これらの賃金を含めた最低賃金額の計算は注意が必要です。

5. 最低賃金の効力発生日

東京都の最低賃金が888円に引き上げられるのは平成26年10月1日です。 この日の労働から引き上げられます。

6. まとめ

社会保険労務士として色々な企業の賃金制度をみていきと、最低賃金額の上昇が非常に経営上大きな問題になっているということです。
10年つとめてくれているパートタイマーと高校生のアルバイトの時給があまり変わらない。
最低賃金の引き上げによりこの様な問題が起きています。
アルバイトの賃金額を引き上げた結果、正社員の賞与が下がり「高校生の子供のおこずかいは増えたけど、お父さんのおこずかいは減った」と真剣な顔でご相談に来る方もいらっしゃいます。

最低賃金の上昇を何とか引き止めなければ中小企業はやっていけません。
今回の引き上げに関して、その点も含めてご理解いただければ幸いです。

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