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人事のブレーン社会保険労務士レポート第131号
就業規則に必要な「曖昧さ」

1. はじめに

「就業規則の条文に曖昧さを残しましょう」
社会保険労務士が言う言葉ではないというお叱りを受けそうです。
しかし実務を考える上で「条文の曖昧さ」というのは非常に重要なのです。

 今回はこの点を掘り下げてみたいと思います。

2. 法律と条文

 争うが起きた時に解決の拠となるのが法律です。
より細かく、具体的に法律に規定しておけば、紛争が発生した時にすぐに解決出来るでしょう。

裁判所も必要なくなるかも知れません。

 しかし現実では法律の解釈や適用について争いが生じ、裁判所で解決しています。
なぜ法律で具体的に、詳細に取り決めをしないのでしょうか。

3. 法律と条文

 今と1年後では社会が変化しているかも知れません。
少なくとも「全く同じ」ということはありません。
 細かく取り決めたとしても、それは今を前提とした取り決めです。数年後もその前提条件が変わらないとは限りません。
 状況が変わる都度、法律を変えていては「今の法律はどうなっていたっけ?」
ということになり、何が正しいのかわからなくなり、混乱してしまいます。
 また法律をつくる人が予想しなかった事態も起こるのです。予想しなかった事態が発生したから過去に遡って法律を変えますということは出来ません。
 この様な観点から法律の条文は曖昧せざるをえないのです。

4. 就業規則も同様

 これは就業規則も同様です。
条文を頻繁に変えたら、どれが一番新しいものなのかわからなくなってしまいますし、法律と違い企業という狭い社会で適用されるルールですから、社会の変化による影響もより大きくなります。
 ですから条文に曖昧さを持たせることにより、状況の変化や予想外の事態にも対応できるようになるのです。
 また、全てのことを想定してそれに対応した規定を作るということは不可能ですから、不可能を前提に規定を作ることが実務なのです。
 就業規則というツールで、紛争が発生した時に機械的に解決したいという経営者の方の気持ちはよく分かります。
 しかし、紛争の解決には当事者間のコミュニケーションが不可欠です。
当事者間で直接コミュニケーションを取らない方が良い場合には代理人を通じてコミュニケーションを行うのです。

5. 規定で全てを解決する事は不可能です

 労働法の解釈でも労働側の方と経営者側の人では解釈が違います。
どちらかに偏った法律に替える場合は別として、法律を変えることでこの解釈の違いを解決する事は出来ません。
 お互いの議論を通じて方向性を見いだしていきます。
就業規則の解釈も同様で、経営者と労働者のコミュニケーションが基本となり、そのコミュニケーションの際に発生する解釈の違いやトラブルの防止や解決の拠になるのが規定です。

 コミュニケーションを行わないで解決する事は不可能なのです。
この点をしっかりと理解して就業規則を作成したり、トラブルを解決しなければ成りません。

6. 就業規則には権利も義務も書いてあります

 就業規則や雇用契約書には経営者も労働者も、それぞれの権利と義務が記載されています。
 一方が就業規則を根拠に権利を主張すると、もう一方も就業規則を根拠に権利を主張してきます。
 コミュニケーションを重視して解決を考えて行かなければこの様な事態になってしまい、紛争が大きくなってしまうのです。

 規定に曖昧さを残し、コミュニケーションで補っていくという発想は極めて現実的で有り、この様な発想で労務管理をして頂きたいと思い今回のテーマとしました。

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