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人事のブレーン社会保険労務士レポート第118号
賃金制度を考えるにあたっては“急性疾患”と“慢性疾患”の区別を!!

1. はじめに

この連載では残業手当の問題をどの様にして解決していくのかを取り上げたこともありました。

残業手当の問題を解決するためには賃金制度を変えなければならない。
経営者の方は、この制度変更に対して「どうせ変えるなら完璧なものにしたい!」という意気込みで取り組まれる方もいらっしゃいます。
その気持ちはよく分かるのですが、賃金制度を考えるにあたっては次のような考え方を理解して進めなければなりません。

2. 急性疾患と慢性疾患の事例で考えてみましょう

未払い賃金が発生するような制度では企業の潜在的な債務が増えるだけですので大きな問題があります。
この問題を解決するためには、定額残業制度や変形労働時間制、効率的な人員配置などを考えて行かなければなりません。

建設業や営業職など管理が出来ない職種については、管理が出来ないという現実を受け入れて、管理が出来ない状態でも未払い賃金が発生しない制度をつくる必要があります。
管理が出来ないということでれば定額残業部分が多くなってしまいます。
定額残業部分が多くなり、基本給などが低くなってしまうために好ましくないということであれば、賃金額を増やすか労働時間の短縮を行わなければなりません。
しかし賃金額を増やすことも労働時間の短縮も簡単にはできません。
賃金制度自体では何も解決をしてくれません。

どの様に運用していくかが問題の解決には重要なのです。
制度を作って駄目ならば、別の制度を作ってみようという発想は否定しませんが、運用に根本的な問題があるのであれば、どんな制度を作っても駄目なのです。
ここで大事なのは優先順位の付け方なのです。
優先順位をどの様にしてつけるのか。
私はお客様とお話しする際にこの様な事例でご説明します。

3. 優先順位の付け方

「出血多量で倒れている人に糖尿病の治療をしますか?」
出血が多量であれば早急に止血をしなければ命を失います。
この方に糖尿病の持病があっても、とにかく止血をしなければ、糖尿病の治療をしても意味がありません。

賃金制度を考えるにあたっても同様なのです。

未払い賃金が発生している状況であれば、それは本来支払うべき債務が増えている状況なのです。
労働者から請求されれば、その債務は一気に表面化します。
この状況を改善することが“止血”の作業なのです。
まず止血を適切に行った上で、体質改善を行う必要があります。
“止血”と“体質改善”は同時に行えません。
なぜなら止血は早急にしなければならないからです。
体質改善を進める作業は時間がかかります。
この2つの作業を切り離して行わなければなりません。
ですから「どうせ賃金制度を変えるなら完全な制度を!」という経営者の気持ちは分かるのですが、「止血をしてから体質を改善していこう!」という発想をもって取り組まなければ問題は解決しません。

4. 運用しながら改善を

賃金制度は万能ではありません。
賃金制度をつくれば終わりという訳ではありません。
しっくり来ない賃金制度だから、新しいものをつくるというのも原因を分析してからではないとお勧め出来ません。

社員が組織に不満を抱いている場合、社長や管理職を非難するよりは、賃金制度を非難する方がやりやすいのです。人ではなく、制度ですから不満のはけ口としてターゲットになりやすいという事がいえます。

しかし本当に非難したいのは組織運営ですから、賃金制度を変えても上手くいきません。
体質改善を行って、労働条件の改善や風通しの良い組織運営につなげていくことが必要です。
この体質改善という作業は、私たちの体と同様にメンテナンスは日常的に行わなければなりません。「ここまでやったら終わり!」という基準もありません。

ですから“はじめから完璧な制度”はつくれないのです。

時間がかかる作業という表現よりも、終わりがない作業という表現が適切かもしれません。
この作業をしっかりと分けて、まず「止血」をしてから「体質改善」を行っていく。
もし賃金制度でお悩みの方がいらっしゃいましたら、この考え方を参考にされて下さい。

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