コラム社会労務の基礎知識

歩合制のデメリットとは

1. はじめに

 「社員が上げた売上を賃金に反映すれば、社員は売上を意識して頑張り売上を上げてくれるのではないか」
このようなご相談をうけることがあります。
歩合制を導入することにより、果たして売上を上げることができるのでしょうか。
今回はこの点を検討したいと思います。

2.社長と同じような数字の感覚を持って欲しい!?

優秀な営業力を持った社員が一人で会社を引っ張っていく企業はたくさんあります。
中小企業では、社長という優秀な営業マンが会社をひっぱっているというケースが非常に多いです。
優秀な営業マンを中心に組織がうまく機能している時はあまり問題を感じません。
しかし一人がどれだけ頑張っても、無限に売上や利益を上げられることは不可能です。
一人の人間には時間的にも能力的にも限界があるのです。
会社の売上を上げようとする場合、優秀な営業マンをもう一人つくればいいのですが、なかなか簡単にはいきません。優秀な営業マンは独立してしまうことも多いですし、大リーグの松井選手やイチロー選手のようなスーパースターはなかなか簡単には出てきません。普通の社員を松井選手やイチロー選手のように育てていくしかないのです。
社長であれば、日々財務諸表とにらめっこをしていますから「今月は後いくら売上を上げて、利益をこれぐらい出す」という意識を持って仕事に取り組めます。
しかし普通の社員に対して、社長と同じ意識を持って取り組めということは難しいです。仮にそのような意識を持った社員がいても、いずれは独立してしまうでしょう。
社長と同じ意識は無理でも、少しでも意識を高めたいということが現実的な対策だと思います。社員に数字感覚を持って欲しいといっても、会社の帳簿を全て見せることは難しいでしょうから、会社の帳簿を見せなくても社員に数字を意識して欲しいという観点で「歩合制の導入」という話が出てくるのです。

3.歩合制とは

歩合制とは売上や利益、訪問件数などに応じて賃金を決定する制度です。固定給はなく完全に売り上げなどの数字により賃金額が決定する完全歩合制と、固定給に歩合給を上乗せして支払う制度もあります。
歩合給に対しても残業手当は発生しますから導入の際は気をつけなければなりませんが、今回は歩合給の制度ではなく意義がテーマなので、歩合給の制度の詳細については省略いたします。

4.組織とは!?

歩合給を導入すると売上が上がるのでしょうか。利益が出るのでしょうか。
企業には色々な役割の社員が集まっています。
営業、営業事務、配送、経理等々、一つ欠けても企業として機能しません。
営業という職種でも同じです。飛び込み営業が得意な人、常連さんのフォローが得意な人、商品を売るのが得意な人、生産性の低い修理をコツコツとやる人。この中で誰が一番偉いとは決められません。これが組織であり、共同作業なのです。
歩合制を導入することにより、歩合率の高い商品を勧めた結果、修理のお客様に対する接客がおろそかになってしまい、リピーターが減ってしまう。
このような事態が生じてしまうのです。

5.歩合制により短期的な視点で物事を考えるようになってしまう

歩合制は「今月の売上を上げる!!」というケースは有効かも知れません。
しかし、今後も継続的に売上を上げるという観点では駄目なのです。
継続的に売上を上げるには「リピーター」は大事ですし、「種まき的な営業」も大切です。
歩合制度は売上や利益により賃金が決まるわけですから「リピーターにつながる生産性の低い営業」や「種まき的な営業」を敬遠したがる雰囲気になってしまいます。
また、企業が継続的に利益を出すためには「人材育成」が欠かせません。
歩合制に「人材育成」という観点を組み込むことは非常に難しいのです。
自分の歩合を稼ぐ時間と労力を他人のために割くわけですから、労働者に人材育成の観点を持ってもらうということは至難の業なのです。

6.人材育成も短期的視点で金太郎飴化も

もう一つの歩合制における人材育成の問題点は「金太郎飴化」です。
営業成績が優秀な社員は自分の歩合を稼ぐのに必死ですから、教育に時間を割けません。このような会社で生き残るには、優秀な社員の真似をするのがベストなのです。
「営業とはこうだ!!」「優秀な社員を君とはここが違うから駄目なんだ!!」
このような指導が行われます。優秀な社員の真似をすることは初期の教育では大切ですが、それだけでは人材は育成されません。組織に必要なことは「人材の多様性」です。
ストレートでも変化球でも対応できる組織作りです。
一人の能力には限界がありますから、多様な能力や個性を持った人間が集まり、組織を形成するからこそ企業は強くなるのです。歩合制の弊害として多様な価値観を受け入れる組織風土がつくりにくいということがあります。
一人の優秀な営業マンの営業方法が陳腐化したら、その会社は坂道を転がり落ちてしまうのです。

7.歩合制の結果が出る場合とは

今までお話ししたように、歩合制は弊害が多い制度です。
しかし全ての業種に合わないかというとそうではありません。効果のある職種は運送業などの職種です。営業職が仕事を取ってきて、ドライバーがそれを効率的にこなしていくような業務です。
この場合「効率性の向上」によって「賃金額が上昇」しますから、歩合を稼ぐという意識により効率がよくなり生産性が向上します。企業は多くの仕事を捌けることにより売上が上がり、所定労働時間内の生産性が向上します。結果、利益が上がるという構図になるのです。
営業という仕事は「効率の追求」だけではできませんから、歩合制には不向きな職種ということになるのです。

8.まとめ

今回は歩合制の意義について掘り下げてみました。
歩合制の仕組みを解説した書籍などはありますが、デメリットを中心とした意義について掘り下げた文献がないので私が書こうと思いました。
労働時間と賃金はまさに組織を動かす血液です。この血液が効率よく行き渡るためにはどのような制度がいいのか。ご参考にしていただければ幸いです。

「初出:週刊帝国ニュース東京多摩版 知っておきたい人事の知識 第56回  2014.8.26号」

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