コラム社会労務の基礎知識

昇給や賃金額を決定する際にどのように考えるべきか

1. はじめに

「今年はどれくらい昇給させたら良いのだろうか。」この様に悩まれている社長さんは多いと思います。
「よその会社に比べて、うちの会社の賃金はどう?」という質問もされます。

昇給をどの様にして考えれば良いのでしょうか。

 

2. 他社の賃金と比較しても意味が無い

「他社の賃金と比較して、うちの会社は高いのだろうか。安いのだろうか。」
これを考えて果たして意味があるのでしょうか。
様々な企業があり、売上げも利益も様々です。
昇給など賃金額を決定する場合に大切なのは「他社との賃金比較」ではなく、「いくらだったら払えるのか」という視点です。
「うちの賃金は他社より低いから」といって、賃金額を上げることは難しいでしょう。

逆に「他社より高い」といっても社員の定着率向上につながるわけではありません。

 

3. 賃金を決める考え方

社員一人あたりの売上げは限界があります。
この「社員一人あたりの売上げからどのくらい賃金にまわせるのであろうか」を考えなくてはなりません。そこから一人あたりの賃金額を決めていく方法が大切なのです。

例えばある社員の一ヶ月の売上げが100万円だったとしましょう。
そこから諸経費を引いて、人件費にまわせる額は30万円。
社会保険料が15%程度かかりますので、255,000円がこの社員に支払える賃金の上限になります。
これ以上支払ってしまっては、会社は赤字になってしまいます。

この数字を把握することが大切なのです。

 

4. 評価の限界

ここで少し視点を変えてお話ししてみます。

新入社員と入社3年目の社員とでは能力が違うでしょう。
しかし入社5年目の社員と10年目の社員はどのくらい能力差があるのでしょうか。

この能力の差が賃金額の差として評価しなければなりません。
ここで大切な視点は、賃金差として評価することは限界があるということです。
前でお話ししたように、社員一人あたりの売上高は限界があります。
そこから諸経費を控除した金額が人件費の上限です。

この上限を超えた賃金額を支払っていては赤字になってしまいます。
結論として、社員の能力の差を賃金額の差として評価することは限界があるのです。

5. お寿司の例で評価の限界を考える

能力の差をトロで考えてみましょう。

一貫3000円のトロと一貫8000円のトロ。どちらも高級なトロであることは間違いありません。
しかし、味の違いが分かる人がどれだけいるのでしょうか。
マグロ屋さんや板前さんなら分かるのかもしれませんが、普通の人だとここまで高級なトロでは味の違いが分からないと思います。
だとしたら、一貫8000円のトロを購入する人がいるのでしょうか。
3000円のトロで満足するでしょう。

社員の能力をトロに置き換え、社員の賃金を値段に置き換えて考えてみましょう。

お客様が支払ってくれるのは3000円。8000円の能力を持っていてもお客様は3000円の評価しかしてくれません。
そうするとこの8000円の能力を持った社員の評価は高くても、売上げは3000円しかありません。

ですから3000円の能力を持った社員と賃金額を同じにしなければ会社は赤字になってしまいます。これが評価の限界なのです。

社員の能力が一定以上のものになったら、賃金額を頭打ちにするしかありません。

人件費という予算がある以上これはやむを得ない事なのです。

6. 8000円の能力を持った社員の評価

社員は一人で仕事をしているわけではありません。組織の中で上司の指揮命令により業務を行っています。社員一人では3000円の売上げが限界であっても、その社員を束ねて、チームで売上げを上げていく事は出来ます。

社員の売上げを限界まで引き上げる為の教育も重要です。

組織を束ねるリーダーシップや社員教育を通じて、売上げの底上げをすることが出来る社員については賃金額を上げることが出来ます。

3000円の売上げを上げる能力にプラスアルファの能力、例えばリーダーシップであったり教育能力といったものがあれば、その社員の会社に貢献する売上げは上がり、賃金額を増やすことが出来ます。

自分一人の仕事を完璧にこなす能力も尊いですが、それだけでは賃金額の上限があるのです。

そこにプラスアルファの能力があれば、賃金額の上限を引き上げる事が出来るのです。

賃金額を決める際には、まず一人あたりの売上げの上限を把握し、一般社員にはその賃金額を上限として考える。
しかし、管理職や教育などがしっかりと行える社員には、そのプラスアルファの能力に応じて賃金額を引き上げていく。この作業が非常に大切なのです。

昇給の時期で、多くのご相談をお受け致します。

他社の賃金を比較するのではなく、いくら払えるのか。そしてプラスアルファの能力とは何があるのか。この分析をして頂ければ昇給や賃金額決定の悩みも解決するはずです。是非お試し下さい。

「初出:週刊帝国ニュース東京多摩版 知っておきたい人事の知識 第40回 2013.4.23号」

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