コラム社会労務の基礎知識

定年と再雇用の改正概要と対策 〜高年齢者等雇用安定法の改正〜

1. はじめに

「4月1日から定年はどうなるの?」
「希望者全員を65歳まで雇い続けなければならないの?」
「労働条件はどうすればいいの?」
など平成25年4月1日に改正される高年齢者等雇用安定法改正についてのご質問をうけます。 今回は、この改正法の概要と対策をお話しします。

2. 枠組みは変わっていない

今回の改正法では大きな枠組みは変わっていません。
定年は従前どおり「60歳以上」です。
ですから60歳定年のままでいいのです。そして再雇用しなければならない年齢は「65歳」です。
「60歳以上定年、65歳まで再雇用」の枠組みは変わっていないのです。
ではどこが変わったのでしょうか。

3. 再雇用の対象者が変わりました

従前は、60歳以上の定年時に再雇用をする対象者について労使協定の締結を前提に選別をすることができました。
「定年前3年間で出勤停止以上の懲戒処分を受けたもの」とか「定年前3年間で人事考課においてE評価があったもの」という様な客観性のある基準で、対象となる労働者が再雇用されるにあたり、何を頑張り、何に気を付ければ再雇用されるのかを明確に認識できるものであれば、労使協定を締結することにより再雇用の対象者を選別することが出来たのです。
この「労使協定での選別」が60歳では出来なくなりました。
しかし全く選別をしてはいけないという内容で改正されたわけではありません。
改正法では、「解雇相当事由」や「退職事由」の存在があれば60歳定年をもって再雇用をしないことも出来るとなっています。
「解雇相当事由」や「退職事由」の存在が必要ですから、労使協定で締結した内容では対象者の選別ができないわけです。
「定年前3年間で出勤停止以上の懲戒処分を受けたもの」や「定年前3年間で人事考課においてE評価があったもの」といった理由では「解雇相当事由」にはなりません。
60歳定年時点での再雇用対象者の選別にはハードルが高くなったということが改正法の第一のポイントです。

4. 労使協定での選別の経過措置

第二のポイントは労使協定で選別できる経過措置が設けられたということです。
60歳定年時に「解雇相当事由」や「退職事由」を理由として高いハードルながらも労働者を選別できます。
そして改正法が施行される平成25年4月1日時点では61歳で再度この年齢以降に再雇用を行うが対象者の選別できるということになります。
この61歳時点では「改正前の選別の基準であった労使協定で定めた事由」で再雇用対象者の選別ができるわけです。
今回の改正法を難しく考えていらっしゃる方もおりますが、「60歳定年で解雇相当事由・退職事由で選別、61歳から64歳までは経過措置により労使協定で選別、65歳で再雇用が終了」という単純な枠組みになっただけです。
61歳から64歳までの労使協定による選別の経過措置については下記の表のとおりです。

4.第3項の基準を適用することが可能な年齢は、生年月日に応じて定める次表右欄の年齢とする。

区分

年齢

平成25年4月1日から平成28年3月31日まで
(昭和28年4月2日から昭和30年1月1日までに生まれたもの)

61歳

平成28年4月1日から平成31年3月31日まで
(昭和30年4月2日から昭和32年4月1日までに生まれたもの)

62歳

平成31年4月1日から平成34年3月31日まで
(昭和32年4月2日から昭和34年4月1日までに生まれたもの)

63歳

平成34年4月1日から平成37年3月31日まで
(昭和34年4月2日から昭和36年4月1日までに生まれたもの)

64歳


上記の表の年齢に達した際には、改正前の選別の基準であった労使協定で定めた事由」で再雇用対象者の選別ができるわけです。平成37年4月1日以降(昭和36年4月2日以降に生まれたもの)は経過措置が終了し、協定で定めた事由で選別出来ないこととなります。
なぜこの様なことになったかというと、今回の高年齢者等雇用安定法の改正は、老齢厚生年金の支給開始年齢に対応する為に行われました。
定年と老齢厚生年金開始年齢に乖離があると労働者が生活に困ってしまいます。それを解消するための政策として法律が改正されたわけです。
今後段階的に61歳から65歳まで老齢厚生年金の報酬比例部分の支給開始年齢が引き上げられます。
今回の改正法の政策の目的が「定年と老齢厚生年金支給開始年齢の乖離」ですから、老齢厚生年金の報酬比例部分が支給されればこの目的の一部が達成されたことになります。
ですから経過措置が設けられたわけです。

5. 改正法への対策

改正法への対策として、普通解雇事由や懲戒解雇事由を見直すことや、服務規定などを見直すことも必要でしょう。
また労使協定を締結していない場合には、労使協定の締結も必要です。
しかし大きな枠組みは変わっていませんので、改正法への対策も大きな変更はありません。
60歳定年を原則として、65歳まで1年の労働契約を更新していくという再雇用形態がいいと思います。
60歳と61歳では体力や気力はあまり変わりませんが、63歳や64歳では60歳時点と比較して体力や気力が変化することも考えられます。定年延長などでフルタイムで65歳まで働きたい方もいらっしゃるでしょうが、週3回で働きたい。午前中だけ働きたいという方もいらっしゃいます。一年更新の労働契約にして、再雇用者の体力に応じて勤務時間を柔軟に変えていくことも重要なことです。
高年齢者雇用も大切ですが、一方で若年層の雇用対策も急務です。
柔軟な高年齢者の雇用形態と若年層の雇用対策を通じて、企業にあるノウハウをしっかりと継承していくことが何より重要なことでしょう。
企業経営の「タスキ」をしっかりと次世代につなぐ為の再雇用制度を目指していきましょう。

「初出:週刊帝国ニュース東京多摩版 知っておきたい人事の知識 第38回 2013.2.26号」

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