コラム社会労務の基礎知識

人件費の考え方①【賃金額から時短へ】

1. 最低賃金の上昇

生活保護よりも最低賃金が低いという事で、最低賃金額が引き上げられてきた。政権交代後の今回の最低賃金改定は、東京都においては30円も引き上げられ、821円となった。
生活保護の水準が適正であるかの議論が無く、最低賃金を引き上げるということに、私は大いに疑問を感じる。
しかし、平成22年10月24日より東京都の最低賃金は821円になることは決定がされた。
最低賃金の水準で賃金額の設定がなされている業界は、運送業や建設業といった拘束時間の長い業界、そして仕出し屋さんの様な、早朝時間帯に勤務する必要があり、利益率の低い業界である。
最低賃金が上昇したコストを価格に転嫁できないために、これらの業界は非常に厳しい経営環境となる。
企業が法律により社会的コストを負担する場合には、同時に中小企業が価格転嫁を出来る枠組みをつくっていかなければ、中小企業の経営は成り立たない。
価格転嫁できる仕組みであれば、それにより価格が上昇し、消費者も社会的コストが価格上昇を通じて実感でき、その社会的コストを誰が負担すれば適切なのかと真剣に考えることも出来るであろう。
誌面の関係でこの議論は本稿では省略し、どの様にして最低賃金の上昇を乗り越えるかを検討していきたい。

2. 賃下げの限界

新規採用したパートタイマーの時給水準を800円と考えている企業は多い。
東京都においては821円が最低の水準となり、21円賃上げをしなければならない。
この様な環境であるから、人件費を削減する場合には、賃金額を下げることで大きな効果を得ることは出来ない。
例えば、850円のパートタイマーの時間給を交渉によって10円下げたとしよう。
10円の賃下げの効果は「10円×8時間×23日」と過程した場合、1ヶ月の削減できる賃金額は184円。
今後も最低賃金が上昇して行くであろう事を考えると、賃金額を下げることで得られる利益は少ない。

3. 1日15分の休憩を増やそう

ではどうすればいいのか。 労働時間の短縮という方法である。 時給850円のパートタイマーが、労働時間の途中に15分の休憩を取得できた場合はどうであろうか。
850円×15分(0.25)=212.5≒213円
23日労働とした場合には
「213円×23日」で4,899円となる。
10円の賃下げ交渉をするのではなく、業務の効率化や組織化を図り1日15分の休憩を交代で各パートタイマーが取得することで、一人あたり月間4,899円の人件費の削減効果が得られる。
仮に800円を821円に引き上げた場合の人件費増は3,864円である。
一方、821円のパートタイマーに15分の休憩を取得させた場合、4,715円の人件費削減効果がある。
最低賃金上昇を乗り切るためには、1日15分の休憩を取得させる管理体制を構築すれば、その上昇分は吸収できるのである。

4. 管理体制がこれからの時代は鍵である

最低賃金が上昇し、それを価格転嫁出来ない時代には、業務をしっかりと管理できる体制が大切である。
人間の集中力は限られている。
8時間の労働時間を7時間45分に短縮しても、現在の生産量が落ちない体制をつくることは難しくない。
しかしそれは管理体制がしっかりとしている前提である。
忙しいからといって闇雲に労働者数を増やすのではなく、業務が滞っている場所、効率が悪い場所、ミスが多い場所等、忙しくさせている原因をしっかりと把握し、それを改善するために努力をしていかなければならない。
人件費の管理は大変であるが、前述の例で、850円のパートタイマーを15分の休憩をとらせただけで1ヶ月4,899円の削減となる。
10人いたら48,990円の削減である。
これだけの利益を上げる為にどれだけ苦労しているのかを考えれば、人事管理の体制を整備することの重要性を否定できないであろう。
しっかりと人事体制の整備をして頂き、利益を確保して頂きたいと考える。

「初出:週刊帝国ニュース東京多摩版 知っておきたい人事の知識 第11回 No.722 2010.10.19号」

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