コラム社会労務の基礎知識

問題社員の対処方法【トラブルへの対処方法】

1. 1年間に79回も遅刻した労働者を解雇したら無効という判決 

この話をすると、「1年間に79回も遅刻をして、解雇できないというのはけしからん。」というお叱りを受けます。
しかし、この事例では78回目の遅刻までは注意らしい注意をせずに、79回目の遅刻で解雇をしたという経緯があります。
裁判所は、今までルーズな勤怠管理をしてきて、注意らしい注意をせずに、いきなり厳格な勤怠管理を行い解雇する事は、労働者にとって酷であるという判断をしました。

2. 恣意的なルール変更とみなされた勤怠管理の変更

この事例では、ルーズな勤怠管理から厳格な勤怠管理への変更は、この労働者を解雇するために恣意的になされたルール変更とみなされました。
 この恣意的なルール変更は、経営者にとって有利な事はありません。
例えば、辞めて欲しい社員がいて、配置転換や労働条件の引き下げを行った結果、解雇せずとも、自己都合で辞めるであろうという希望的な憶測により、恣意的な配置転換や労働条件の変更を行う経営者がいらっしゃいますが、これは絶対にやってはなりません。
この恣意的な措置は、紛争に至った場合、会社にとって百害あって一理なしです。この恣意的な措置の弁明に大きな労力を費やす事となるでしょう。

3. 良かれと思ってやった事でも、相手はその様に思ってくれるとは限らない

この事例の場合、鬱病により厳格な勤怠管理をする事が出来なかったかもしれない。または、シングルマザーで、その事情をわかった経営者が見逃していたのかもしれない。
しかし、あまりにも酷いので解雇に至ったかもしれない。
良かれと思ってやった事でも、相手がその様に思ってくれるとは限りません。
この様な場合には、何時であれば遅刻をしないで出勤を出来るのか等を、労使間で十分に話し合い、その結果を労使間でしっかりと守っていくというルールの変更が行われていれば、この様な争いはなかったかもしれません。
大切なのは、コミュニケーションであり、「良かれと思ってやっている事」をしっかりと労働者に伝えて、「どういう背景でやっているのか」「どの様な事をやっているのか」「いつまでやるつもりなのか」という理解を得る事は極めて大切です。

4. 言いにくい事ほどしっかりと伝える

人間言いにくい事ほど後回しにしてしまいがちです。
ズルズルとタイミングを逃してしまい「何となく上手くいっているから言わなくても良いか」という事もあるでしょう。
しかし、言いにくい事ほど重要な事だったりします。
ボタンの掛け違いが生じてからでは手遅れになる事が多いのです。
言いにくい事ほど、早めに話し、ルールを決める事が問題社員を発生させないためには非常に重要な事です。

5. 恣意性を排除する為には組織づくりが大切

恣意的なルール変更は、労働者に有利なだけであり、経営者にとっては百害あって一理なしという事は既にお話ししました。
問題社員を発生させないような組織づくりというのは、効率の良い組織づくりと同義であります。
組織内で日々誰が何をしているのか。報告・連絡・感想がしっかりしている組織であれば、仮に労働者が問題ある行動をしたとしても、すぐに注意が出来る。
迅速に情報にふれれば、経営者も速やかにどの様に対処するのかを判断する事が出来ます。
労使間のトラブルというのは、この報告・連絡・感想がしっかりとなされていない組織に多いように思えます。

6. まとめ

vol.8でも「労使紛争は感情が解決の妨げになる最大の原因」であるとお話ししました。
この感情もコミュニケーションにより、コントロールする事も出来ます。
また恣意的な事をされると、人間は感情的になります。
ストレートに悪いところを伝えた方が、結果として解決の早道になるでしょう。
「解雇」という行為は、労使双方にとって重大な事でありますが、経営者が解雇をするという決断をしたら、理由を含めてストレートに労働者に伝えるべきです。
恣意性を排除して、労働者としっかりとコミュニケーションをとる事が何よりも大切な事です。

「初出:週刊帝国ニュース東京多摩版 知っておきたい人事の知識 第9回 No.713.2010.8.17号」

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