コラム社会労務の基礎知識

中小企業の人事考課
【運用でもっとも大事なことはコミュニケーション】

1. 「人事考課を導入したい!」という動機

人事考課を導入したいという動機は何でしょうか。「主観を排除し、客観的に評価をしたい」「公平な査定を行いたい」といったことを述べられる経営者が多いです。
私は必ずこのように伺います。
「公平って何ですか?」
「好き・嫌い、あう・あわないで評価しない」というような主旨の答えが帰ってきます。

2. 人事考課制度でもっとも大事なことはコミュニケーション

人間は感情の動物ですから、感情を排除して評価を行うことは困難です。
私は、保育園を運営する社会福祉法人の理事を拝命しており、理事の職務として現在とあるコンサルティング会社よりコンサルティングを受けながら人事考課制度をつくりました。
理事という経営者の立場として人事考課制度を導入するにあたり、「感情」や「思いこみ」を排除するためには、継続的に人事考課者研修を行うことが重要性であると改めて痛感しました。
何が言いたいかというと、人事考課とは、考課する側の“能力”と“意識”に対する教育が極めて重要であり、それは非常に手間のかかる事であるという事実です。
継続した人事考課者研修を受けた者が、人事考課を行い、その考課結果を被考課者にフィードバックをして納得させるプロセスが本質的な人事考課であると考えます。
人事考課表や賃金表はそれに付随するツールであり、最も重要なことは考課結果を被考課者に納得させるコミュニケーションであるということです。

3. 人事考課の目的は人材育成

「フィードバック」と「納得してもらう」ことが重要な理由は、人事考課制度の目的が人材育成だからです。
自ら解決すべき課題とさらに伸ばしていく課題を認識させることが人事考課の目的なのです。
その目的に緊張感を持たせる為に賃金を絡めているだけなのです。

4. 人事考課における公平とは何か

私は「人事考課における公平」とは「全員が納得するということ」と考えています。
自分の評価に対して大多数の社員が納得していなければ、その人事考課制度の信頼性は失われます。結果として、誰も真剣に人事考課を行わなくなってしまいます。
「公平=納得」だとすれば、納得させるコミュニケーションが重要であり、その為に考課者は何を日々行うべきかを考えていかなければなりません。

5. 人事考課制度とはつくって終わりではない

この様に人事考課表とはつくって終わりではありません。
つくってからのコミュニケーションが極めて重要なものであり、それを維持することは非常に労力がかかるものです。

6. 人事考課制度は必要なのか?

人事考課制度が「自らの評価を納得させ、自らの課題を認識させるプロセスである」とすれば、それはわざわざ制度をつくる必要があるのでしょうか。
多くの経営者と議論をして、“なぜ人事考課制度をつくりたいのか”という本音は「人事考課は毎年悩むから、制度をつくって自動的に行いたい」という点に集約できると思います。
しかし本稿で述べてきたように人事考課制度とは「制度をつくったから、後はよろしく!」というものではありません。
ですから人事考課制度をつくってもこの様な経営者のニーズを満たすことはできません。

7. 自信を持って評価してほしい

中小企業とは、少なからず経営者の個性で成り立っています。「会社の個性=経営者の個性」なのです。経営者の個性で会社を伸ばすとすれば、経営者がやりやすい人材を揃え、それに応えてくれる人材の評価が高くなることは全く悪いことではありません。
むしろその事が会社の成長の原動力になるのだと考えます。
公平な人事考課を心がけるあまり、経営者の個性がなくなってしまっては、その企業の魅力もなくなってしまうかもしれません。
人事考課制度をつくらずに、経営者の「感情」や「思いこみ」で評価をして良いのです。
それにより企業が成長する原動力になることもあります。
しかし最低限やらなければならないことは、“苦手だな”と思う労働者としっかりとコミュニケーションをとることです。
この事が問題社員に対する解決方法にもなりますし、風通しの良い組織につながっていきます。
企業というのは伸ばすも潰すも社長次第です。経営者の個性を全面に出して、価値観を共有できる社員を育成していくことが重要です。
人間の集まりが組織なのですから、コミュニケーションが円滑に行われているのかをチェックすることが経営者の役割なのです。

「初出:週刊帝国ニュース東京多摩版 知っておきたい人事の知識 第7回 No.703.2010.6.08号」

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