KNOWLEDGE OF PERSONNEL AND LABOR

人事・労務の知識

人事のブレーン社会保険労務士レポート第214号
最低賃金額の引き上げとサービス業の生産性向上について

1.はじめに

コロナ禍で苦しむ企業が多い中、中央最低賃金審議会は最低賃金額を全国平均で28円引き上げることを決めました。
最低賃金の議論の中で「最低賃金の位置づけ」を正確に理解していない方が多く、この引き上げによりどの様な現象が起こるのかをしっかりお伝えすることが専門家の仕事と考え今回のテーマといたしました。

2.最低賃金額とは何か

最低賃金額とはそれを下回ることができない賃金額であり、原則としてすべての労働の対価としての一時間換算額の最低額です。
一生懸命頑張っている労働者に1013円なんて少ない額ではなくて、もう少し支払ってあげなよという意見があります。
これは正しい意見なのですが、最低額の賃金ですから「支払ってあげなよ」という労働者層のイメージがずれています。
「支払ってあげなよ」という労働者層は真面目に数年間働いている方々を想像されていると思います。
しかし最低賃金額は「数年間頑張っている労働者」の層の賃金額ではありません。
どの層かというと「昨日まで中学生だった高校一年生の賃金額」です。
最低賃金の労働者層は社会人経験のない、仕事どころかマナーもわからない初めてアルバイトをする層の賃金です。
ここを明確にして議論しなければ?み合いません。
議論する政府も全国平均1300円という指標を目指してこ結論だと思います。
最低賃金額で働く労働者層を審議会の委員のメンバーもしっかりと理解をしているのか疑問に感じます。

3.最低賃金額上昇の効果

最低賃金額が引き上げられると労働者は幸せに感じると思われる方が多いかもしれません。
この点を分析したいと思います。
最低賃金額が引き上げられると昨日まで中学生だった高校一年生(以下「高校一年生」といいます)の賃金額が引き上げられます。
東京都は令和3年10月より1041円に引き上げられる予定です。
1013円から28円引き上げられます。
高校一年生の時給が28円引き上げられる訳ですから、大学生やフリーター、パートタイマーの賃金額も引き上げなければなりません。
そうすると全体の賃上げ効果が生じ、労働者にメリットが生ずると思われます。
しかし最低賃金が上昇したことで、その上昇分を価格転嫁できません。
ですから今までの売り上げ、コロナ禍においてはそれよりも低い売り上げでこの28円をねん出しなければなりません。
27.6%も賃上げはできませんので、以下のような現象が生じます。

第一に正社員の賞与が減少する。
売り上げが変わらないのか、若しくはコロナ禍で売り上げが減少している中での引き上げですから総人件費は変えることはできません。
ですから正社員の賞与を減らしたり、パートタイマーに支給していた寸志といった少額の一時金の廃止につながります。
高校生のお小遣いは増えたけど、親の収入が減ったという事態になるのです。

第二に賃金格差がなくなるということです。
賃金格差がなくなるということは良いように聞こえるかもしれませんが、そうではありません。
最低賃金額が27.6%も上昇しました。
これは初任給が上昇するということ。例えると階段の一段目が高くなったというイメージです。
しかし総人件費を増やすことはできません。
ですから二段目以降の階段の高さを低くしなければならないということです。
今まで時間給で30円昇給していたものを10円とする様にせざるを得ないということです。
つまりこれは高校一年生も10年働いたベテランのパートタイマーも賃金差が殆どつかず、熟練労働者の賃金額を高くすることができないということです。
高校一年生に人件費をつぎ込むわけですから当然です。

4.生産性の議論の間違い

最低賃金額を高くせよという方々は、そもそも生産性が低いのだから頑張って高くしなさいという主張をしてきます。
日本のサービス業は生産性が低いのでしょうか。
私は違うと思います。
生産性が低いのではなく、客単価が低いのです。
日本人はサービスに対して対価を支払いたがりません。
例えば自転車の空気がなくなり、自転車屋さんに空気入れをかりました。
空気入れもともとあるし、借りただけだからとお金を支払わない。
このマインドがサービス業の利益率を低くする原因です。
借りたのだから対価を支払うのは当然というマインドではないのです。
自転車屋さんも「100円です」と請求すればいい。

葬儀のケータリングも料理の料金は支払いますが、配膳の労働者はサービスで料金を請求しない商慣行があります。(私の住んでいる地域だけかもしれませんが)
1000人来るような大きな葬儀であれば収支は合いますが、小規模な葬儀では赤字です。
これを解消するためには配膳のサービスを有料にすればいいのです。

送料無料も同様です。送品代金と送料は別のサービスですから送料を請求しなければ利益率が上がりません。

ある電気屋さんがテレビが映らないといって自宅に訪問したらコンセントが入っていなかったということがありました。修理代請求できないと悩まれていましたが、社員一人が往復1時間30分それに費やしたのですから出張費を請求すればいい。

我々士業も原価がないと思われているのか簡単な相談ですと請求しにくい雰囲気があります。

ですから日本のサービス業の生産性を上げるということは、今まで無料で行っていたことを有料にするということなのです。
サービス業の経営者が努力不足なのではなく、人がいいだけなのです。

コロナ禍で苦しんでいる宴会場も、宴会があれば室料無料というサービスをしていましたが、飲食する室料は無料でも、研修会で使用する室料は有料にするという流れになってきました。
これも生産性をあげる方法です。

最低賃金額が上がります。日本商工会議所は反対をしておりますが、どうなるかわかりません。
しかしこの中で、我々経営者がやることは客単価を上げる。
無料でやっていた付加価値のあるサービスを有料にする。
これが大事であると考えます。

厳しい経営環境の中、頑張っていきましょう。

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