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人事・労務の知識

人事のブレーン社会保険労務士レポート第212号
減給の制裁と賃金引き下げの注意点

1.はじめに

「減給は10%まででしょ?」とよくご質問をいただきます。
これは間違いであり、減給の制裁と賃金額を引き下げることは違います。
その点を明らかにしていきたいと思います。

2.減給の制裁とは

労働基準法第91条にて減俸の制裁が規定されております。
条文では「就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の半額を超え、総額が一賃金支払い期における賃金総額の十分の一を超えてはらない」と定められています。

この条文の前提は、通常の労働をしていることが前提であり、懲戒処分で出勤停止処分となった場合の賃金控除は実際に働いておらず、その結果として賃金額が減少しているので、減給の制裁ではない(昭23.7.3基収2177号)とされています。

働いているのに懲戒処分により賃金が減らされる場合に第91条が適用されます。

3.減給の額

(1)平均賃金の半額

減給の制裁の上限は平均賃金の半額になります。
一事案につき平均賃金の半額であり、一事案の減給の制裁を複数月にわたって行うことは本条違反となります(昭23.9.20基収1789号)
一事案につき一回限りで、しかも上限額が平均賃金の半額ということになります。

(2)一賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えてはならない

この規定により「減給は10%」と思われている方が多いのかもしれません。
これは前項でお話しした一事案平均賃金の半額が複数事案ある場合でも10%を超えてはならないですよということであり、一事案で10%を減給したら本条違反となります。

(3)本条の運用

本条で減給できる賃金額は少額でありますから、引っ越し業者等で帽子を被っていない、靴の踵を踏んで作業をしているケースでの1000円程度の減給の制裁を行う場合にてきようされます。
また遅刻をしてきた労働者に対して、遅刻時間以上の賃金額を控除する場合も本条の適用となります。5分遅刻してきたが、15分の欠勤控除を行った場合、実際に労働している10分の賃金について本条の要件を満たしていれば問題ありません(昭63.3.14基発150号)。ただし就業規則等にこれらの定めが必要となります(昭26.2.10基収4214号)。

(4)賞与について

賞与も労働基準法上の賃金額であり、賞与において減給の制裁を行う場合も本条の適用になります(昭63.3.14基発150号)

この様な場合には一回の額が平均賃金の半額で、複数回減俸の制裁の対象となる行為を行った場合でも一賃金支払期の10分の1以内とされております。 懲戒処分として減俸の制裁を行う場合の上限は上記の通り平均賃金の半額となり、しかも一事案一回のみとなります(昭和23年9月20日基収1789号)。
減給処分という懲戒が行われるケースがありますが、公務員に適用される法律、委任関係にある取締役への制裁で可能となる処分であり、労働基準法ではあくまで平均賃金の半額が上限となるのです。
降給について減法の制裁として行う場合には労働基準法第91条の規定によるとされております(昭和37年9月6日基発917号)。

一般的に懲戒事案が発生して賃金を引き下げる場合には懲戒処分ではなく、懲戒事案を通じて検討し、当該労働者の能力を再度評価した結果、現在の賃金水準ではなく下位の労働者の賃金相当の能力であり、同一価値労働同一賃金の観点から適正に評価を行った結果、賃金を引き下げるという結論に至った場合のみ許されることになります。
この様に懲戒処分として継続的に賃金を引き下げることは労働基準法第91条により禁止されております。

4.降給としての減給

減給の制裁については上記の通りです。
しかし懲戒事案を通じて当該労働者の能力の再評価を行った結果、賃金額が適正ではないという結論に至り、当該労働者の能力に見合った賃金水準に引き下げるということは可能であります。
通達でも自動車運転手として事故を起こした結果、助手に降格して賃金が下がったケース(昭26.7.3基収2177号)や、月給者を日給者に格下げした場合(昭34.5.4基収2664号)については減給の制裁ではなく職務変更等に伴う当然の結果という判断をしています。

ですから懲戒処分として賃金額を下げる場合には本条の適用となり、10%の賃金を引き下げることは違反となります。
しかし上記の通達の通り、職務変更や役職の降格等による賃金額の引き下げについては本条の適用にはならないということになります。

この点を明確にしなければ第91条による減給の制裁なのか、職務変更や役職の降格、能力や職務内容等を再度評価をした結果、同一価値労働同一賃金の原則から現在の賃金水準は高く、他の労働者との関係で見直さざるを得ないという結論に至ったのかがわかりません。
本稿を参考にしっかりと誤解のないようにしていただきたいと思います。

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