人事のブレーン社会保険労務士レポート第199号
新型コロナウイルスに伴う休業手当の整理
1.コロナウイルスに罹患した社員の対応
新型コロナウィルスは指定感染症となっており、都道府県知事により入院勧告等の措置の対象となります。ですから当然就業することが出来ずノーワークノーペイの原則から賃金を支払う必要がありません。
2.濃厚接触者である社員の対応
濃厚接触者に該当した場合には14日間の経過観察が必要となります。罹患している可能性のある人を出勤させるという事は出来ない訳です。
罹患している前提として取り扱わなければなりません。
しかし罹患した場合には指定感染症ですので欠勤しなければならず休業手当の対象となりません。
濃厚接触者の場合には法律上、隔離をしなければならないというルールはありません。
あくまで本人の協力に基づき自主的に隔離をしてもらっているという考え方です。
ですからこの場合には発熱等の症状がみられない場合には休業手当の対象となります。
3.風邪の症状がある場合の社員への対応
新型コロナウイルスの受診基準について37.5℃とでており、これが独り歩きしています。症状については人により違うわけであり、無症状の方もいれば、発熱がなく喉や鼻の症状だけの人もいます。
ですから37.5℃未満であれば問題ないという事ではありません。
そもそも労働者は債務の本旨に従った労務の提供を行う必要があります。
風邪の症状が出た場合については出勤せず休むことが原則であり、風邪の症状のある社員を休ませたからといって休業手当を支給することまで求められておりません。
風邪の症状があれば休むという事はノーワークノーペイの原則からして問題ないと考えられます。
しかし風邪の症状が治った後、新型コロナウイルスに罹患しているかもしれないという恐れから一定期間自宅待機をさせるケースがあります。
この場合には休業手当を支給する必要があります。
4.緊急事態宣言により休業対象業種に該当した場合
労働基準法第26条は使用者の責めに帰すべき事由により休業する場合には休業手当を支払うこととされています。
都道府県知事の要請により休業の対象とされた場合は「使用者の責めに帰すべき休業」には該当しません。
ですからこの場合には休業手当を支払う必要はありません。
当然支払うことは問題ありません。しかし支払う義務はありません。
休業手当を支払わないと社員の生活に困ってしまいます。
しかしこれは労働基準法で救済するものではなく、休業要請した都道府県知事がその社員の生活を保障しなければなりません。資金的に大変厳しい中小企業が営業できない訳ですから企業が支援することは無理があります。
労働基準法も平時の法律ですから、この緊急事態を想定していないという点が問題なのであると考えます。
厚生労働省のホームページでは、緊急事態宣言により休業要請の対象業種となったからといって直ちに休業手当を支払わなくていいというわけではないと記載してありますが、法的に支払う必要があれば「休業手当を支払え」と記載されるわけです。
食中毒で飲食店が保健所より営業停止となった場合には食中毒を起こしたのは使用者の責任ですから休業手当の対象となります。
しかし新型コロナウイルス感染拡大は使用者にはどうしようもないことです。よって緊急事態宣言を受けた休業手当を支払う必要はないという結論です。
これはあくまで緊急事態宣言をうけて休業要請対象業種に限ります。
休業要請業種に該当しない場合には休業手当が必要になってきますので注意をしてください。
5.新型コロナウイルスの影響で原材料が調達できず休業を余儀なくされた場合
新型コロナウイルスの影響で原材料が調達できないという事態が生じています。
労働基準法第26条では原材料が調達できないことが原因で工業が操業できない場合には使用者の責めに帰すべき理由という判断がなされています。
これは新型コロナウイルスでも同様であり、使用者の責めに帰すべき理由となり休業手当の対象となります。
6.まとめ
新型コロナウイルスの感染拡大は労働基準法をはじめとする労働法令に想定をされておらず手探りで今までの通達や裁判例を紐解き考えていかなければなりません。
大変厳しい経済状況が想定されますが、この難局を乗り切り、熱い楽しい夏が来ることを願うばかりです。