人事のブレーン社会保険労務士レポート第193号
令和元年最低賃金額の改定について
1.はじめに
令和元年10月1日より東京都の最低賃金は1013円となります。ついに1000円を超えてしまいました。
最低賃金額を引き上げると労働者が幸せになるという事は間違いです。
偉い経済学の先生が「最低賃金を引き上げるメリット」を述べられていますし、最低賃金額を引き上げた際に経済に悪影響を与えるというエビデンスがないという方もいらっしゃいます。
実務家として中小企業の経営に携わっていますと、この考え方に驚きを感じます。
最低賃金額を一定程度に保つという事は必要であると思います。
しかし最低賃金額が適用されるのは全ての労働者に対してです。
昨日まで中学生であった社会人としてのマナーを知らない高校生の賃金額が1013円になります。しかしこの最低賃金額の上昇分を価格転嫁できません。
小売店においては乳製品の価格上昇を未だ消費者に価格転嫁できていない状況です。
最低賃金額を引き上げて、その上昇分を価格転嫁でき、消費者もそれを受け入れて消費意欲を保ってくれるということが前提になってきます。
しかし価格転嫁が出来ず、消費者もそれを受け入れないことを考えると最低賃金額を引き上げても経済が活性化するわけがないのです。
高校生の賃金額が上昇するけれども、価格転嫁ができない以上総人件費は変えられない。
よって正社員の賞与を減らしたり、昇給ピッチを少なくすることしかできません。
労働者の家計が楽にならないのです。
実務家として当たり前のことを「エビデンスがない」といって最低賃金額を上昇させることを政策として進めることは理解できません。
例えばこの1013円の最低賃金額が「3年間一生懸命働いた人の賃金額」という事であれば理解できます。
しかし色々な方と議論するとその様なイメージで考えられているのです。
仕事どころか、社会人としてのマナーから教えなければならない人の賃金額が最低賃金額なのです。
ここが誤解されている点なのです。
2.月給制の最低賃金額
最低賃金額は時給で定められています。
月給制はどの様に最低賃金額を計算すればいいのでしょうか。
「年平均月間所定労働時間」で計算します。
これは年間の所定労働時間の合計を12で割ったものです。
所定労働時間とは残業時間や休日労働ではない基本給とか諸手当が労働の対償としている時間になります。
年間休日数が110日で一日の所定労働時間が8時間の会社があったとしましょう。
(365日─110日)×8時間=255日×8時間=2,040時間
これが年間の所定労働時間の合計になります。
これを一年の暦月であります12か月で割ると
2,040時間÷12か月=170時間
この様になります。
これが最低賃金額を計算する際の「年平均月間所定労働時間」となります。
東京都の最低賃金額は1013円ですから1,013円×170時間=172,210円
これが月給制の最低賃金額になります。
年間の休日数が変わっていたり、一日の所定労働時間が変わっていたりするとその数字を上記計算式に入れて行います。
例えば年間休日数が120日の会社は1,960時間となり165,457円となります。
年間休日数が多い会社ほど月給制では最低賃金額が少なくなります。
また、この年平均月間所定労働時間は残業計算に使います。
3.残業時間の上限との混同
しかしよく誤解されているのは所定労働時間の上限との混同であります。
あくまでこの数字は最低賃金額の計算と残業手当の単価にしか使いません。
月の残業の上限は別の数字になります。
週休2日の会社であればその月の曜日の関係で変わってくるでしょうし、一か月単位の変形労働時間制であれば31日、30日、28日という月の暦日数で変わってきます。
残業時間の上限は月によって変わり、この「年平均月間所定労働時間」とは関連がありません。
ここが注意点です。
4.まとめ
最低賃金額の上昇により企業の収益が圧迫されていることは事実です。
しかし正しい計算をしなければ最低賃金法違反となり、またそれによって求められる残業手当の額も低くなり労働基準法第37条違反となります。
退職した労働者からの請求という事も増えています。
正しい計算をご理解いただいたうえで対策を立てていただきたいと思います。