社会保険労務の基礎知識
知ってると役立つ労務や人事の社会保険労務の基礎知識を掲載していますので、ぜひご覧ください。
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出生後休業支援給付金について
1.はじめに 令和7年4月1日より、育児介護休業法が改正されました。それに伴い雇用保険から給付される給付金が新設されました。 今日は新設された給付金の1つである「出生後休業支援給付金」についてお話ししたいと思います。 この給付金は、従来の育児休業給付金に上乗せして支給されるものです。 2.給付金の要件 第一の要件は、まず出産をして、出産した方が産後休業を取得します。 この産後休業は、出産した方しか取得できませんので、女性になります。この女性の配偶者になりますから男性すなわち父親が配偶者(母親)が出産後56日以内、すなわち産後休暇中に14日以上の育児休業を取得すること。 第二の要件は、配偶者(母親)が産後休暇終了後、14日以上の育児休業を取得すること。 この要件を満たすことで、最大28日間にわたり給付金が上乗せされます。 3.給付金の具体的な水準 従来の育児休業給付金は賃金の67%が支給されています。これは変わりません。これに上乗せされる形で支給される制度になります。 具体的には、出生後休業支援給付金として13%が支給されます。育児休業給付金と合わせて80%の休業保障となる制度です。(67%+13%=80%)。これにより、従来よりも手厚い経済的支援が受けられることになり、育児中の経済的影響が少なくなるように設計をされています。 4.施策の意図と企業への影響 この制度は、男性の育児休業取得が要件となっているものですので、今後は男性の育児休業取得を促進するこになるでしょう。企業は男性社員が育児休業を取得するという前提で制度面での準備・心構えがより一層求められることとなります。 ご不明な点がありましたら、お気軽にご相談ください。 文責 特定社会保険労務士 山本法史 ご連絡は 八王子市元横山町2-5-6 社会保険労務士法人山本労務
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初任給が高い企業の注意点
新卒の初任給が30万円を超える企業が増えていると報道されています。 初任給が高いことはいいことですが、そこだけを注目して就職するのは注意が必要です。 報道をみると「初任給は35万円」「ボーナスは今までより1か月分減額」「社員の平均昇給額は2万円」という内容の企業があります。 月給は高くするけど賞与や退職金を減らします。 この様にして月給額を確保しています。 賞与は一か月減額で平均昇給額2万円となると24万円月給は増えるけど、賞与は一か月分減ってしまう。 年収が減る世代があるはずです。 20代で一生懸命働いてスキルを磨き転職するのだという方は別ですが、その企業に長く勤めようと考えた場合には生涯年収の概念が必要です。 20代、30代の月給は高いけど昇給は少なく、40代以降は出世コースから外れた人は年収額が低いということも考えられます。 初任給だけではなく賞与や40代以降の待遇をしっかりと見ていく必要があります。 大手企業と違い、中小企業では40代以降の社員が戦力となっているので、40代以降の賃金を下げることは難しく、20代、30代の賃上げに苦労します。 20代、30代に厚遇する大企業、40代以降でも厚遇する中小企業というイメージがあります。 求職者もこの点をしっかりと見極めて欲しいですし、企業側もこの点を理解して賃上げの設計をしていただきたいと思います。 文責 特定社会保険労務士 山本法史
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役職手当の注意点
役職手当を支給している会社はたくさんあります。 役職手当の主旨からすると、会社の定めた一定の役職に就いている社員に対して支給しています。 役職が高くなれば金額も増えていき、役職が低くなれば金額は減っていく。 役職を外れれば当然役職手当がなくなる。 この様な運用をされているケースが多いと思います。 この役職手当で争われたケースがあります。 例えば部長にはこの金額の役職手当を支給します。課長にはこの金額の役職手当を支給します。 この様に定めている場合、役職が部長から課長に降格すれば当然金額も下がります。 しかし部長から降格になっても役職手当を下げることは違法であると判断されるケースがあるのです。 「部長の仕事はこの仕事」「課長の仕事はこの仕事」と明確に区分されていれば部長から課長に降格になった際には「この仕事をやらなくていい」「この責任は負わなくていい」という事がわかります。 しかし部長の仕事と課長の仕事の範囲が明確ではない場合、部長から課長に降格になっても業務量や責任は変わらないということがありうります。 この場合、役職手当は「役職」に対する手当ではなく、役職関係なくその人の属人的な能力に対する賃金であると判断されるケースがあります。 役職に対する対価というのは名ばかりで、属人的な能力に対する対価である賃金だから役職が変わっても支給することが当然でしょ。 この様に裁判所は判断する場合があります。 特に主任や係長といった役職の労働者、部下のいない部長や課長。 明確に役職に対する職責を説明できない場合には、役職を降格しても、役職手当を減給できないケースが想定されます。 役職の職責を明確にしとく必要がありますのでご注意ください。 文責 特定社会保険労務士 山本法史
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金融機関が嫌う社会保険に未加入
金融機関は融資した債権を役所に差し押さえられることを嫌います。 融資が回収できなくなるわけですから当然と言えば当然です。 健康保険や厚生年金保険といった社会保険の未加入により何故差し押さえのリスクが高まるのでしょうか。 健康保険と厚生年金保険は労使折半で保険料を支払います。 従業員の給与から毎月3万円の保険料を控除していたとします。 月々の給与から控除されますのでこの保険料は支払えます。 しかし年金事務所の調査により未加入が発覚したとします。 健康保険と厚生年金保険の保険料の時効は2年です。 月々の保険料が3万円であると仮定すると24カ月分で72万円になってしまいます。 会社負担分と合わせると144万円が会社の金融機関口座から引き落とされてしまいます。 10人が該当したら1440万円になってしまいます。 結構な金額です。 72万円は本来従業員が負担すべき保険料です。 しかし72万円従業員に請求できますか? 仮に請求してもすぐに72万円会社に振り込んでくれる従業員は何人いるでしょうか。 10人いたら720万円です。 一括で支払うことが出来ず年金事務所が差し押さえしてしまうということもあるのです。 ですから社会保険に未加入というのは財務的に大きなリスクであり、差し押さえの可能性があるために金融機関が嫌うのです。 この様な観点から社会保険の未加入というのは非常に大きな経営上のリスクであると言えます。 しっかり対策をしていきましょう。 お気軽にご相談ください。 文責 特定社会保険労務士 山本法史