最低賃金が上がっても労働者は幸せにならない?―その構造的な理由とは―
最低賃金が引き上げられても、必ずしもすべての労働者が幸せになるとは限りません。
その理由について整理してお伝えいたします。
例えば、東京都では令和7年10月に最低賃金額が63円引き上げられました。月給換算すると、およそ1万円程度の増加になります。
仮に、年齢が上がるにつれて、すべての世代の賃金が毎年1万円ずつ増えていくのであれば、それは多くの人にとって望ましいことです。
しかし、現実はそのように単純ではありません。
本来、結婚や子育てなどで支出が増える世代の賃金を引き上げることが政策的な目的の一つと考えられます。
しかし、企業経営の実態を見てみると、事情はより複雑です。
企業は「売上」から「経費」を差し引いた「利益」を確保しなければなりません。利益が出ていなければ、金融機関からの融資も受けにくくなります。そのため、一定の利益水準を維持する必要があります。
ここで問題となるのが人件費です。仮に従業員全員の賃金額を一律で1万円ずつ引き上げた場合、人件費は大幅に増加し、企業経営を圧迫します。
「売上を増やせばよい」という意見もあります。しかし、物価がこれ以上上昇すれば、消費者の負担はさらに重くなります。顧客単価の引き上げにも限界があり、簡単に売上を伸ばせる状況ではありません。
その結果、企業は限られた人件費の枠の中で対応せざるを得なくなります。最低賃金額の引き上げは、若年層など最低賃金額に近い層の賃金を引き上げる一方で、他の世代の昇給を抑えたり、場合によっては調整せざるを得なくなったりする可能性があります。
つまり、一部の層の賃金は上がるものの、そのしわ寄せが他の世代に及び、結果として「これから最もお金が必要になる世代」の賃金が上がりにくくなるという現象が起こり得るのです。
最低賃金額の引き上げは、労働者保護の観点から重要な政策です。
しかし、その影響は単純ではなく、企業の人件費配分や賃金構造全体に大きな影響を及ぼします。
この構造的な問題について、ぜひご理解いただければ幸いです。
文責 特定社会保険労務士 山本法史

