「間違っています、直してください」だけでは伝わらない—社労士が大切にすべきコミュニケーションの本質—
1.はじめに
社会保険労務士の仕事は、行政の窓口対応とは性質が異なります。
処理や法律の解釈の誤りを指摘し、「これは間違っています、直してください」と伝えることも、もちろん大切な業務の一つです。
しかしそれだけで、本当に相手に届くかどうかを、私たちは常に問い直す必要があります。
2.「聞く準備」ができているかどうか
私は現在、保護司をしています。刑務所を出所したり、社会に戻ろうとしている方々と向き合う中で、気づいたことがあります。
彼らは長い間、警察・検察・裁判官・刑務官といった立場の人たちから、繰り返し「あなたの行いはおかしい」と言われ続けてきました。
自分の弱さや、言いたいこと、抱えてきた思いを胸にしまったまま生きている。
そうした方が「どうせ聞いてくれない」と心を閉ざしてしまうのは、自然なことかもしれません。
心を閉ざしたままでは、再犯につながりやすくなります。
だからこそ保護司として私がまず行うのは、その人の話をしっかりと聴くことです。
話を聴くことで信頼関係が育まれていきます。信頼が積み重なった後に、「こうした方がいいのではないか」とアドバイスをすると、相手はようやく聞く準備ができた状態になります。
3.企業経営者も同じです
罪を犯した方と企業経営者を同列に並べることは、大変失礼な話だと承知しています。
ただ、「聞く準備ができているかどうか」という観点では、本質的に同じことが言えます。
経営者にとっても、事業は人生をかけたものです。
そこへ突然「これは違法です、すぐに直してください」と指摘されても、素直に受け入れられるとは限りません。
むしろそうした関わり方では、面倒だから社会保険労務士に正確な情報を出さなくてもいいのではと、私たち士業に届く情報が正確でなくなるリスクもあります。
「社労士には適当に答えておけばいい」という意識になってしまえば、その企業が法令を守り続けるモチベーションには、つながらないのです。
4.プロの仕事とは、「聞く準備」を整えること
ですから私は、企業の経営者が「聞く準備」ができる状態になるまで、どのようにアプローチするかを考えることこそが、社労士としてのプロの仕事だと考えています。
「この場だけルールを守ればいい」という発想では、私たちの本質的な役割を果たしていることにはなりません。継続的に企業のリスクを考え、経営者と向き合い続けるためには、相手の状況や気持ちをしっかりと把握した上で、最も効果的な伝え方を選ぶことが欠かせません。
「間違っています、直してください」と伝えるのではなく、相手がどのような状況にあり、どのような気持ちでいるのかを理解した上で、どのようなアプローチが最も効果的かを考える。それが、私たちのノウハウであり、真の価値だと思っています。
柔軟な姿勢で、お客様と向き合い続けてまいります。
文責 特定社会保険労務士 山本法史

